『トリコロール / 赤の愛』クシシュトフ・キェシロフスキー

孤独な老人を人間不信から救った若き女性の「博愛」

トリコロール/赤の愛

《公開年》1994《制作国》フランス、ポーランド、スイス
《あらすじ》スイス・ジュネーブの大学生ヴァランティーヌ(イレーネ・ジャコブ)はモデルの仕事をしながら、イギリスに住む恋人と遠距離恋愛をしているが、電話でしか話せない恋人からは浮気を疑われ、彼への愛に疑問を抱き始めていた。
ある夜、ヴァランティーヌは車で犬を撥ねてしまい、その飼い主を訪ね初老の元判事ヴェルヌ(ジャン=ルイ・トランティニヤン)と知り合う。彼は、人間不信のかたまりのような人物で、電話の盗聴を唯一の趣味にしていた。
一方、ヴァランティーヌのアパートのそばに住む法律家を目指す青年オーギュスト(ジャン=ピエール・ロリ)は猛勉強の日々で、心の支えは年上の恋人
だったが、その恋人の裏切りにあってしまう。
そして、30年前のヴェルヌの過去に似た物語が、オーギュストのエピソードに重なるように描かれる。姿形は違うが魂は一緒という30年を隔てた二人の人物は、たまたま開いた法律書のページが翌日の試験に出たり、愛し合っていた女性に裏切られたり……。しかし、二人とも運命の女性ヴァランティーヌに出会い、やがて愛とも言える感情を抱くようになる。
ヴェルヌは過去において愛した女性に裏切られて人間不信に陥り、判事という人を裁く仕事で心を閉ざすようになり、退官して無気力な日々を過ごすうちいつしか盗聴が生きがいになっていたが、ヴァランティーヌに対しては盗聴の秘密を打ち明け、彼女から批判される。やがてヴェルヌは告発されるが、それは自ら警察に自首してその事実を明かしたためで、ヴァランティーヌを呼び寄せるためであり、そのことで二人は少しずつ心を通わせるようになる。
そして、ヴァランティーヌは仕事でイギリスに向かうフェリーに乗り、その船には失意のオーギュストも乗っていて、ドーバー海峡で海難事故にあってしまう。そして偶然にもヴァランティーヌとオーギュストは寄り添うような形で救出され、二人の今後を暗示しながらエンド。



《感想》第1部「青の愛」、第2部「白の愛」に続く最終章で、ヒロインの魅力、作品の出来、ともに最もいい。なんと、ラストの海難事故救出のシーンでは、「青の愛」のジュリーとオリヴィエ、「白の愛」のカルロスとドミニクも一緒に救出されるという、まさに奇跡的なエンディングが用意されていた。
まず映像が素晴らしい。アップを多用し、サスペンス風の適度な緊張感を持たせながら、流麗で繊細でしかも美しい。シナリオは細かいプロットがきっちり積み重ねられ、伏線も見事でありながら、出来過ぎたエピソードも大人のファンタジーとして許されそうな完成度である。
本作のテーマは「博愛」。人間不信に陥っていた老人が、心の美しい女子大生に出会って、人を信じる、愛する気持ちを取り戻していく、その触れ合いによって変わっていく様は感動的である。

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投稿者: むさじー

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