『誘拐報道』伊藤俊也 1982

悪人になれない誘拐犯と被害者、それぞれの家族の葛藤を描く

《あらすじ》宝塚市の私立小学校1年・三田村英之が誘拐され、犯人から小児科医の父・昇(岡本富士太)、母・緋沙子(秋吉久美子)に身代金の要求があった。各新聞社には「報道協定」の要請があって、それには従わざるを得ないが協定解除に向けた準備をするべく、新聞社は色めき立った。
最初の身代金指定場所の河原には英之のランドセルがあって、警察への通報に気付いた犯人から、再度の脅迫の電話があった。
犯人・古屋数男(萩原健一)は、気が弱いくせに見栄っ張りで娘・香織(高橋かおり)を私立小学校に通わせているが、経営していた喫茶店をだましとられ、妻・芳江(小柳ルミ子)の稼ぎで食いつないでいた。誘拐した英之は香織の同級生だった。
日本海を見下ろす断崖に立った数男は、布団袋に入れた英之を投げ棄てようとするが、崖下に人影があって実行できず、その足で老母の住む丹後の実家に寄った。
その頃、英之の両親は息子を取り戻すべく必死に金策に走り、数男はトランクに押し込めた英之を連れて誘拐の旅に入っていく。最初殺そうと思っていた英之がオシッコと言えばそれに応じ、食べ物を与え話しているうち、だんだん情が移っていくのだった。
次の指定場所は喫茶店だったが、店内の刑事に気付いて諦めた数男は一旦自宅に戻り、そこで誘拐した英之と娘が友達で仲良しだったと知り愕然とする。そして次に空港を指定するが、喫茶店で見た刑事がまたも目撃され、接触は出来ず、そのうち英之が寒さと疲労で高熱を出してしまう。
数男は悪寒を訴える英之を持て余し、精神的に追い詰められ、英之の両親は再三刑事が目撃されたために息子を取り戻せず、警察への苛立ちを募らせていく。ガソリン切れになった数男が車を停め呆然としているところで、警官の職務質問を受け、トランクの中の英之が発見されて、数男は緊急逮捕される。
報道協定は解除され、マスコミに追われるように芳江と香織は丹後の義母の家に向かうが、途中二人にカメラを向けてきた新聞記者に対し香織は「うち、お父ちゃん好きや」と叫んでエンド。

《感想》誘拐犯の家族、被害者の家族、警察、報道機関、それぞれの視点から描かれるが、犯人の素顔が明らかになってからは誘拐犯目線が軸になってくる。
この犯人像は、切羽詰まって誘拐に走り当初は荒々しかったが、それから先に進めず、だんだん気の弱さ、優しさが露呈してくる。日頃は母や妻に甘え、娘を溺愛し、今は誘拐した少年にさえ優しく接してしまう、実に人間臭く、思い入れを誘うキャラである。その犯人像を萩原は生々しい存在感で演じ、脇に大物俳優をズラリ並べていたが、やはりショーケンの映画という印象が強い。
犯人検挙を優先する警察、裏の情報収集に躍起な新聞社と、対立する犯人家族・被害者家族の描き方は割と平板で、社会派映画としては弱いが、犯人とその家族を描いた人間ドラマとしては秀逸である。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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