因業な裏社会を生きる女二人、ゴッド・マザー韓国版
《公開年》2015 《制作国》韓国
《あらすじ》10番のコインロッカーに捨てられていたため、イリョン(10の意)と名付けられた女(キム・ゴウン)は、裏社会を支配する通称「母」(キム・ヘス)の元でファミリーとして育てられる。
その母は闇金融だけでなく、偽の入国許可証作り、臓器売買など手広く行っていて、自分の元で子どもたちを育て、独立させてネットワークを広げるというやり方で、刑事やヤクザをも支配下においていた。
大人になったイリョンはある日、集金に行った先でソッキョン(パク・ボゴム)というコック修業中の好青年に出会い惹かれるが、彼の父が借金を抱えたまま逃亡したため、イリョンは母から「彼を始末せよ」と命じられる。彼を逃がそうとするが叶わず彼は殺され、イリョンは殺されずに人身売買の船に拉致されるが、ヤクザの兄・チドに傷を負わせ海に逃げる。
その後はファミリー内の殺し合いで、母がヤクザの兄・チドを殺し、次兄・ウゴンと知的障害のある弟・ホンジュは格闘の末ともに死に、麻薬中毒の姉・ソンは自死してしまう。チドの依頼でイリョンを狙うタクがイリョンを襲うが、イリョンの逆襲に合い、タクは殺されてしまう。
イリョンは母に「これから殺しに行く」と伝え、電話を切った母は「私はもう役立たずね」とつぶやく。母はまるで待っていたかのようにイリョンに胸を刺される。かつてこの母は育ての母を殺していて、殺した橋の上で供養し「母を殺す子の気持ち」をイリョンに話していたが、イリョンはこの時ようやく自分が母の後釜になったことを知り「殺される母の気持ち」を理解する。
母の仕事を継いだイリョンが母から託されたコインロッカーを開けると、「母との養子縁組届」とイリョンの「住民登録証」が入っていた。そして、母を殺したリビングで一人、母を弔う儀式を行ってエンド。
《感想》通常裏社会を仕切っているのは男で、「ゴッドファーザー」にしろ、韓国ノアールにしろ男社会が描かれるが、本作は「韓国版ゴッドマザー」で、主演二人の生き様が凄まじい。家業の継承が「殺す」「殺される」というのも凄いし、自分はもう役立たずだからと死を受け入れる母も凄い。
途中からラブストーリーに転じるのかと思いきや、彼氏はあっけなく殺され、バイオレンスの世界に戻る。本作にはどんでん返しとか、オチの面白さとかはなく、直球勝負でグイグイ走り抜けてしまう。
韓国映画の凄さは、フィクションとしながらも、自国の恥と思われ兼ねない裏社会の悲惨さを包み隠さず描き出し、人間の本能とか欲望とか本音のところで人間を語ろうとしていること。暴力を描くにしても、単に行為とかその影響とかでなく、行為者の心根が見えなければ……その点でこのヒロイン二人は凄い。暗く、重く、救いがない映画だが、暴力の内側に潜む優しさ、切なさは伝わってくる。それを感じ取れるか否かで評価は分かれるだろう。
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