『パーマネント野ばら』吉田大八 2010

幻想に支えられた女性と、それを支える優しき人たち

パーマネント野ばら

《あらすじ》離婚したなおこ(菅野美穂)は娘を連れて、母親まさ子(夏木マリ)が営む美容院「パーマネント野ばら」に出戻り、今は高校教師のカシマ(江口洋介)と付き合っている。
親友のみっちゃん(小池栄子)はキャバクラで働いているが男運がなくて、彼氏に新しい女が出来たと知るや二人めがけて車で突っ込むなど、その行動は破天荒。もう一人の親友ともちゃん(池脇千鶴)も男運がなくて、DV男で懲りた後はギャンブル男で、その男も失踪したあげくに野垂れ死にしてしまう。
なおこはというと、母が旅行に出かけ娘が元夫と出かけて留守の日に、カシマを温泉に誘い幸せな時間を過ごすが、気がつくとカシマは姿を消し、気持ちが分からないとカシマを責める。なおこはともちゃんに「誰にも言ってなかったカシマとの交際」を話すと「何度も聞いてるよ」と答えが返ってきた。
海辺でカシマとデートしているなおこの所へみっちゃんが酒を飲もうとやって来て、振り向くとカシマは居なくなっている。「私、狂っている?」と聞くなおこにみっちゃんは否定の笑顔で答える。
カシマはなおこが高校の時の教師で、交際が芽生えながら彼は亡くなり、なおこは存在しないカシマとデートしていたのだった。なおこが一人海辺にいると娘がやって来てエンド。



《感想》原作は西原理恵子の漫画。
訳ありの主人公が離婚して実家に戻るが、周りには男運のない女友達や、男漁りのオバチャンなど無茶苦茶なキャラばかり。このたくましい女性たちのエピソードが実に面白く、小池、池脇はハマリ役。一番マトモだと思われたなおこが実は幻想にしばられていて、一見無茶苦茶に見える周囲の優しさに支えられていたというオチ。
このオチを知って観たらストーリーの面白さは半減するかも知れないが、登場人物が違って見えて新たな感動が生まれるような気もする。
観終えた後の印象がヒューマン・ホラーの傑作「シックス・センス」のときと似ていた。繰り返しの鑑賞に耐えられる用意周到な伏線で謎を膨らませ、最後まで引っ張って「なーるほど!」と合点をいかせ、二度目には伏線が楽しめるような……。設定は全く違うのだが、幻想にしばられるなおこの切なさについ涙腺が緩んでしまう。
明るくほのぼのとして少し切ない映画なのだが、ラストでカシマの謎が明かされ、今までのほのぼの感はその衝撃で壊れるが、母親の顔に戻ったなおこの表情がわずかな救いとして余韻を残す。何と言っても登場人物のキャラが良くて笑えるし、実は傷ついたなおこを温かく見守ってくれる居心地のいい場所を作ってくれていて、そのまま居心地のいい映画になっている。
そして特筆すべきは菅野の不思議な存在感。天然の癒し系が持つ明るいオーラが、悲しくてもどん底まで落ちないよう温かく包み込んでいる。

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投稿者: むさじー

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