チンピラと日系出戻り移民の不思議な復讐物語
《あらすじ》亜仁丸組準構成員のチンピラ・達男(高橋和也)は悪徳政治家の土門からの要請を受けて、恋人のレンコと友達のタマ(片岡礼子)を派遣するが、タマが重傷を負い、抗議したレンコが組長の亜仁丸(ミッキー・カーチス)に殺されてしまい激怒する。
仲間と復讐を誓い、土門家に忍び込み金を盗むことに一旦は成功したが、亜仁丸に知られ、仲間は殺されて、一人追われる身となった。
そんな折、タクシー運転手の寒竹(役所広司)と出会い、盗んだ金で墓を建てようと故郷の伊豆に行くが、組の男たちに見つかり再び逃亡の旅へ出る。
亜仁丸を狙って東京の組事務所を襲うが、亜仁丸不在で計画は失敗し、偶然事務所にいたタマを連れて寒竹のタクシーで逃亡し、三人は温泉地にたどり着き、そこで達男とタマは、寒竹の父にまつわる昔話を聞く。
寒竹の父は元特攻隊員で医師、64年東京オリンピックの年、子どもを連れてペルーへ行ったが、治安が悪く父はゲリラ組織に殺された。反ゲリラ組織に身を投じた寒竹だったが、親の仇も討てず、祖国日本へ出稼ぎの身になっている。復讐に燃える達男と、復讐できず「根なし草」となった寒竹の思いが微妙に絡み合うこととなった。
追われる達男を寒竹が助け、達男は亜仁丸を狙って殺され、残された寒竹は達男が残した金を貰って一度はペルーに帰る決心をするが、自分の過去を達男の無念に重ね、土門を殺し、屋敷を訪れた亜仁丸をも殺し、二つの復讐を遂げてエンド。
《感想》ペルーの過去の内乱の悲劇や現代の移民問題だけでなく、タイトルにある「神風」が今は鉄砲玉のヤクザ、そしてかつては愛国心に燃えた若者を指していて、日本人の精神を持っていた(と信じる)父の話を、「根なし草」の寒竹の口から語らせるところが面白い。父の無念と達男の無念が重なり、達男の復讐に同調する寒竹の(復讐への)思いがあったものと思われる。
しかし、あくまで組から追われるチンピラと日系出戻り移民のタクシー運転手の奇妙な友情を描いたヤクザ映画で、むやみに精神性とか社会派とかの面で深読みすると面白さが半減するような気もする。
この作品は2本のVシネマを劇場公開用に1本にまとめたもので、そのせいか冗長にして不要なシーンも見受けられるが、全編音楽に彩られた雰囲気のある映像で、哀愁と緊張感がない交ぜになった日本映画では珍しい作品。
ミッキー・カーチス演じる亜仁丸組長は冷酷・残虐だがコミカルで軽やかなキャラ。ラスト、今わの際に「事情を聞かせてくれ」と寒竹と話し込む姿に笛の音が重なり、何とも言えぬ寂寥感が漂う、ヤクザ映画らしからぬエンディングである。また、セリフにも結構マニアックな遊びが含まれていて面白い。
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