『女系家族』三隅研次 1963

遺産相続の揉め事を、芸達者が可笑しく描いた傑作

女系家族

《あらすじ》昭和33年、大阪船場の老舗矢島商店は三代続く女系の家筋だったが、当主嘉蔵が急死し、三人の娘が残された。大番頭・宇市(中村鴈治郎)から遺言状と遺産分配が伝えられるが、みな不満を持つ。
出戻りながら総領娘を主張する長女・藤代(京マチ子)、養子を迎え店を継いだ次女・千寿(鳳八千代)、遊びに余念のない三女・雛子(高田美和)。
しかしそれ以外に愛人・文乃(若尾文子)がいて、おまけに嘉蔵の子を宿していた。宇市が裏で何かと画策をするが話はまとまらず、三姉妹の間で遺産争いが始まる。長女は踊りの師匠・梅村(田宮二郎)と色恋絡みで策を練り、次女は夫と株式組織にしようと企み、三女には叔母(浪花千栄子)が後ろ盾になって秘かに手段を講じていた。
そんな最中に、宇市の案内で文乃が「本宅伺い」をして、周囲は文乃が胎児の認知書を持っているか探るが、文乃は容易に尻尾を出さなかった。
やがて、文乃の出産前に遺産相続を決めてしまおうと三人の意見が一致し、最後の親族会議で解決しようという矢先、文乃が男の赤ん坊を抱いて現れ、7か月児を無事早産したと聞いてみな驚く。しかも文乃は胎児認知書のほかに、宇市がごまかしたつもりの汚職の数々を暴いた遺言状まで持っていた。
関係者が様々な策を弄する中、最後に笑ったのは愛人・文乃だった。



《感想》三隅といえば市川雷蔵「眠狂四郎」や勝新太郎「座頭市」に代表されるチャンバラ映画の人という印象が強いが、こんな傑作もあった。
遺産相続のイザコザの話で、欲と欲のぶつかり合い、みな腹黒く権謀術数を弄するが、横から割り込んだ愛人に持っていかれるというコメディタッチの内容である。山崎豊子原作で、後にテレビドラマ化されているのでストーリーはお馴染みだが、役者が揃うとこんなにドラマに厚みが出るという見本のように思える。
若尾文子は愛人にしては童顔・純朴だが、その裏に妙な色気、妖艶さを秘めていて、日陰女が持つ不安におびえたような美しさと、そこに秘めたしたたかさを見事に演じていた。
芸達者揃いの中で抜きんでているのが鴈治郎の凄さ。男の鬱屈と恨みと金への執着、それでいてどこか憎めないおかしさがあって、とぼけたり、欲深い姉妹をへこませたりという不思議なキャラクターを自然に演じている。まさに人間が内包する欲やずるさを全て晒した人物像で、右に出る者はいないというハマリようだった。
京マチ子のプライドが高くてアクの強い女、田宮二郎の悪役色男ぶりも安定したはまり役だった。
脚色依田義賢、撮影宮川一夫だが、溝口作品とのカラーの違いを見るのも面白い。

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投稿者: むさじー

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