『イロイロぬくもりの記憶』アンソニー・チェン

両親と外国人メイドの間で揺れる孤独な少年の成長のドラマ

《公開年》2014 《制作国》シンガポール
《あらすじ》舞台は1997年のシンガポール。両親は共働きの中国系家族で、一人っ子のジャールー(コー・ジャールー)は問題児のため、母親の悩みの種になっていた。そこでフィリピン人のメイドのテレサ(アンジェリ・バヤニ)が雇われ、ジャールーと相部屋で暮らすことになる。
同じ部屋で暮らすことになったテレサに、ジャールーは当初反発し問題行動を起こしていたが、真剣に自分と向き合おうとする彼女に次第に心を開いていく。
そんな折、父親がリストラで失業し、妻に言えないまま隠れ煙草で問題を起こし、家庭内はゴタゴタが続き、一方の母も霊感商法に引っ掛かり大損をしてしまう。
ジャールーとテレサはバトルを繰り返しながらも少しずつ心を通わせ、次第にジャールーにとってテレサが母親以上に身近な存在になっていく。そんな二人に母親はテレサに対する嫉妬心を抱いたりして、新たな悩みが生まれる。
ラストは二人の失態(失業と大損)で経済的余裕がなくなった両親が、テレサをフィリピンに帰国させることになり、空港で見送り帰りの車中、ジャールーはテレサが好きなフィリピンの音楽を聴きながら涙を流すのだった。

《感想》イロイロとはメイドの出身地であるフィリピンの町の名前だが、登場するわけではなく、舞台は国際都市シンガポール。失業や大損で経済的危機に直面している両親、共働きの両親のもとで暮らす一人っ子、我が子を祖国に残し異国で住み込みで働くメイド、それぞれが切実な問題を抱え、どことなくギクシャクした親子関係の中で、子どもはフィリピン人メイドに愛を求め、気持ちを通わせていく。
経済的に豊かなとき子どもは孤独を感じ、それを救ったのがメイドで、経済的危機を迎えたときメイドとは別れなければならず、その結果生まれたのが家族の結束と子どもの精神的な成長だった。
登場するエピソードが面白い。誕生日プレゼントのヒヨコを育て、大きくなると食卓にのぼり、残った最後の一羽は飼うことにするという。一人っ子の気持ちが反映しているのかと思えた。ここまでやるかという子どもの暴れっぷりや、生徒の面前で体罰を加える「公開ムチ打ち」という慣習には驚く。
監督の幼少期の想い出をもとにしているらしいが、大きな事件は起きず、小さなエピソードを重ねて、淡々と日常を描くその姿勢が好ましい。淡々と描いていながら、緩いというわけではなく適当に刺激的で、その意味では良く出来たホームドラマである。
監督は当時30歳で長編デビュー作。カンヌのカメラドール(新人監督賞)を受賞しているが、新人らしからぬ破綻の無さである。次に求めるのは、破綻を恐れない映画作りと、そこから何が生まれるのか、期待している。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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