『バベットの晩餐会』ガブリエル・アクセル

料理という芸術を通して描く真の豊かさと人間賛歌

バベットの晩餐会

《公開年》1987 《制作国》デンマーク
《あらすじ》舞台は19世紀後半のデンマーク・ユトランド半島の侘しい海辺の村。
牧師を父に持つ美しい姉妹がいて、姉マーチーネには士官ローレンスが、妹フィリパには仏人歌手パパンが求愛するが、姉妹が結婚より父に仕える道を選んだため、ローレンスは別の女性と結婚して出世の道を選び、パパンは母国フランスに帰った。
二人とも未婚のまま父亡き後も仕事を続けたが、年老いた姉妹のもとに、パリ・コミューンによって家族を亡くした仏女性バベット(ステファーヌ・オードラン)が訪れる。パパンの紹介でやってきた彼女は、無給で良いから働かせて欲しいと頼み、姉妹は家政婦としてバベットを家に置くことにした。
歳月は流れ、バベットに1万フランの宝くじが当たる。父の生誕100年を記念した晩餐会を企画する姉妹に、バベットはその食事を作らせて欲しいと申し出る。バベットが取り寄せた食材には生きたウミガメやウズラが含まれていて、気味悪く思う姉妹や村人は、晩餐会の食事は一切味わわないことを決める。
晩餐会には将軍となったローレンスも参加した。料理のあまりの美味しさに将軍ローレンスは感動するが、姉妹や村人は食事に言及することなく、不自然な会話を繰り広げる。近年、村人の信仰心が衰えつつあり、互いにいがみ合うことが多くなっていたが、食事が進むうち次第にその美味しさに気付き、心がほぐれたおかげでいがみ合っていた者同士も打ち解けてくる。
そして、バベットはかつてパリの一流レストランのシェフであったこと、1万フランは今夜の料理に全て使ったので仏には帰らないことを伝える。驚く姉妹の「貧しさを選ぶのか?」の問いに、バベットは「芸術家は貧しくない」と答え、かつてのパパンの言葉から「芸術家として最善を尽くす機会を求めている」ことを告げ、この地に留まることになってエンド。



《感想》家政婦として、周囲の人たちに日々小さな幸せをもたらしてきたバベットだったが、自分の本当の力を尽くせる機会を待っていた。
その機会を得たバベットは、五感を楽しませる芸術としての料理を目指し、芸術家の信念のままに全てを尽くし、その結果は村人たちの「満たされ、幸せを実感し、優しくなった」姿として返ってきた。
芸術の力で人を幸せにするという芸術家の矜持が伝わってくる。
宗教と芸術。清貧にして信仰に生きる姉妹と、幸せは財に非ずと、人を幸せにする芸術に一途に賭けた高潔な料理人。
世界は違うが、真の豊かさとは何かと観客に訴えかけてくる。
晩餐シーンは静かだが圧巻である。食事が進むにつれ村人の様子が変化していく、その様は芸術賛歌、人間賛歌でもある。

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投稿者: むさじー

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