配達弁当から生まれた恋心、しみじみと切なく。
《公開年》2014 《制作国》インド
《あらすじ》インドには弁当配達システムというのがあり、家庭の手作りあるいは仕出し弁当を職場まで運んでくれる。ムンバイに暮らすイラ(ニムラト・カウル)は、家庭に無関心な夫をもち、孤独に囚われながらも腕によりをかけた料理で夫の愛を取り戻そうとしている。
一方、保険会社の会計係をしているサージャン(イルファーン・カーン)は、妻を亡くし一人暮らしをする初老の男性で、仕事はキッチリするが、人付き合いは苦手というタイプ。イラが腕をふるったお弁当が間違ってサージャンの元に届き、お互い不審に思いながらも手紙のやり取りが始まる。
二人は会うことになったが、イラの若さや美しさに比べ、自分の「老い」を知ったサージャンは声を掛けずに身を引く。会いに行く前、サージャンは洗面所で「自分に祖父と同じ匂いを感じた。人生は私をなだめながら進む」とつぶやいている。
夫が浮気していることを知り、家を出る決意をしたイラはサージャンの職場を訪ねるが、既に早期退職をした後だった。イラは翌日、身に付けていた貴金属を売り、夕方の電車で旅立とうとする。かつてイラは幸せの国ブータンに行きたいと言い、サージャンも一緒に行きたいと返事を書いていた。
サージャンは田舎行きをやめ、イラに会いに行こうと弁当配達人から住所を聞き出し、彼らと共にイラの住む町に向かうところでエンド。その後、二人は会えたのか、イラは子どもを置いて旅立ったのかは不明。
《感想》インドの弁当配達システム、その誤配達から偶然生まれた孤独な男女の出会いと心に染みる交流を描いたドラマ。
サージャンの仕事の後任者で、まだ若いシャイクが母の言葉として言う「人は間違えた電車に乗っても正しい場所に着く」。初めの一歩が間違っていても、良き未来に向かっていると信じて進めば、望ましい結果を生む、というようなことか。正しい解釈か否かは不明だが、繰り返される哲学的な匂いのフレーズなので気に掛かる。
「間違えた電車」の一つは弁当の配達先で、さらにイラの結婚であり、そして二人が乗ろうとしている電車のことだろうか。エンディングは謎に包まれていて、二人が正しい方向に行き着くのかは(インドらしく)神のみぞ知るところである。
インド映画に常識の歌や踊りはなく、どちらかといえば静謐という印象で、少し切なくもある大人のラブストーリーだが、レシピを指導する2階のおばさんや、誤配達はないと強く言い切る配達人など笑いの要素も盛り込んで、しみじみ味わい深い作品に仕上がっている。若い新人監督の作とは思えない。
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