『サイダーハウス・ルール』ラッセ・ハルストレム

孤児の青年が出会った愛に満ちた人間模様

サイダーハウス・ルール

《公開年》1999 《制作国》アメリカ
《あらすじ》20世紀半ばのアメリカ、メイン州。孤児院で生まれ育った青年ホーマー(トビー・マグワイア)は、院長ラーチ(マイケル・ケイン)の出産や堕胎を手伝いながら、無免許ながら医学の知識と技術を身に付けていた。
ある日、堕胎のためにキャンディ(シャーリーズ・セロン)と恋人の軍人ウォーリーが訪れ、日頃から堕胎に疑問を持っていたホーマーは、孤児院を出て働くことを決め、ウォーリーの実家のリンゴ園を手伝うことになる。
一緒に働くのは季節労働者の黒人労働者たちで、仕事はすぐに覚えたが、ウォーリーは戦地に赴き、寂しさが募るキャンディとホーマーは距離を縮め、やがて恋に落ち深い仲になった。そして、ラーチからの孤児院に帰るようにとの要請を頑なに拒んだ。
労働者の中にアーサー・ローズとローズ・・ローズの父娘がいたが、娘の妊娠が発覚し、妊娠させた相手が父親と知り、ホーマーは激怒する。また、ウォーリーが下半身不随の重症でまもなく帰還するとの知らせが入り、キャンディは彼にどう接すべきか悩む。どちらも成り行き任せには出来ない、深刻な問題に直面する。
意を決して、ホーマーはローズの中絶手術に臨み成功させるが、娘が父親をナイフで刺すという事件が起き、父アーサーは娘をかばって「自殺した」と警察に言うよう念を押して息絶えた。その後、ラーチ急逝の知らせを受け涙するが、戦地から戻ったウォーリーとキャンディの姿に後押しされるかのように、ホーマーは孤児院に戻ることを決意した。
戻ったホーマーは看護師からラーチの嘘を知る。自分は心臓が悪いと言われ続けてきたが、実は院長の策で兵役逃れだったことを知り、その院長が望んだ後継の道を歩み始めるのだった。



《感想》原作・脚本はジョン・アーヴィング。孤児や中絶・堕胎、近親相姦、不治の病など、重いテーマが次々と投げられてくる。でもそれが重苦しいメッセージかというとそうでもなく、日常「よくある話」のように思えてくるから不思議だ。
最たるものは娘を妊娠させたアーサー・ローズで、娘は父を刺して姿を消し、父は娘をかばい「自分は自殺した」と警察に供述するよう遺言して息を引き取る。これを淡々と描いている。ハルストレムが持っている距離感のようなもの、あくまで「物語」としての描き方をしていて、必要以上に感情移入せず、ドラマチックな盛り上げもしない。「ギルバート・グレイプ」や「ショコラ」でも感じるハルストレムのある種心地良さのような気がする。
大感動作ではなく、孤児として育った青年が外の世界で様々な問題に直面し、成長する姿をさわやかに描いた作品。サイダーハウスの壁に貼られたルール(押し付けられたルール)を焼き捨て、自分で決めたルールで生きていこうとする若者の物語である。

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投稿者: むさじー

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