母と愛犬、失い続けた少年の切なすぎる成長物語
《公開年》1988 《制作国》スウェーデン
《あらすじ》1950年代のスウェーデンが舞台。小学生のイングマル(アントン・グランセリウス)は結核で療養中の母(アンキ・リデン)、兄エリク(マンフレド・セルネル)と愛犬シッカンで暮らしていた。
父親は仕事で外国に行ったまま帰ってこない。「人工衛星に乗せられ、行ったきりのライカ犬の運命を思えば僕の人生はまだまし」というのが彼の人生哲学だ。
母の病状悪化に伴い、兄や愛犬と離れて、イングマルは田舎の叔父夫婦の元へ行くが、そこで男の子を装う活発な女の子サガ(メリンダ・キンナマン)と出会う。サガは最近胸が出てきたためバレるのではと悩み、おじいさんはイングマルに女性の下着カタログを読ませることを楽しみにしている。また、工場で働くグラマー美人のペリドットが彫刻家のヌードモデルになる付き添いをして、その裸を見ようとして窓ガラスを割り、落下してしまう。そのようにして「性のめざめ」を体験していく。
季節が変わり、イングマルは母の元に帰るが、愛犬シッカンの姿はなく、やがて母が亡くなった。イングマルが田舎に戻ると、おじいさんが亡くなっていて、寂しさから犬が欲しいと懇願するが叶えられなかった。
久しぶりに再会したサガは、イングマルに恋している自分に戸惑い、幼い恋の三角関係があって、怒ったサガから「愛犬はとっくに死んでいる」と告げられ、犬の真似をして小屋に閉じこもってしまう。シッカンが処分されたことを黙っていた叔父が謝り、イングマルもそれを受け入れた。
季節は夏を迎え、サガは女の子らしいワンピース姿になり、ラジオを聴きながら仲良く昼寝をする二人の姿でエンド。
《感想》母親の死を迎え、預けられた愛犬の死を知り、自分の境遇に耐え、悲しみを乗り越える術を身に付けていく少年の成長物語である。
母親も、愛犬も、自分の居場所も奪われた少年は、まるで自分は「人工衛星に乗せられたライカ犬」と一緒だと感じてしまう。だから、サガの前で犬の真似をして吠え続け、小屋に鍵を掛けて籠もり犬のように吠えて抵抗した。そして、悲しい出来事を悲しみとして受け入れ、変化を受容することで少しずつ世界が広がっていく、その広がりが悲しみを癒してくれる。やはり、かわいそうなライカ犬よりは幸せだと思えてくる。
大きな事件が起こるわけではなく、少年の生活と成長が淡々と描かれていて、それが自然で、少年の心の機微が伝わってくる。
ラスト、サガは女の子の装いになっていて、男の子から女の子へ、友情から恋心へ、その変化もうまく描いている。
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