『チチを撮りに』中野量太 2013

捨てた父との永遠の別れ、残された家族の成長と絆を描く

《あらすじ》昼キャバに勤める姉・葉月(柳英里紗)と女子高生の妹・呼春(松原菜野花)の父は、幼い頃に女を作って出て行ってしまい、それ以来シングルマザーの佐和(渡辺真起子)に育てられた。ある日母から「お父さんが死にそうだから、会いに行って写真を撮ってくるよう」言われる。
父のいる田舎へ初めて行き、駅に着いたときには父は既に他界していて、葬式への参加となる。駅に迎えに来たのは、父と女の間にできた幼い弟・千尋(小林海人)だったが、女は新しい男を作って出ていき、父の手で育てられていた。
葬式で叔父の嫁から「財産はこの家だけなので、財産放棄して欲しい」と言われ、拇印まで押させられ、憤りと疎外感を感じてしまう。父の遺体に接し、父の顔を見て、姉は「妹に似ている」と言うが、幼い頃の記憶でつながっているだけで、深い感慨はない。
葬式が終わり、叔父の元で暮らすという幼い弟を姉妹は励ます。姉は「どうしても困ったらおいで」とバイト先のキャバクラの名刺を渡す。結局、撮ったのは納骨の写真、持ち帰ったのは万引きした遺骨だけだった。
母の元に帰り、遺骨をもらった母は「この川を拝めばいい」と遺骨を川に投げてしまう。すると骨が川面に浮かび、ジャンプした魚に食われてしまってエンド。

《感想》死の床にある別れた父の写真を撮ろうと姉妹は父の田舎に行くが、父は既に他界していて、突然の葬式に何の感慨も湧かず、父親や親戚との距離を再確認するだけだった。「感謝もしてないけど、恨んでもいない」別れて14年、この思いは姉妹が成長した証しである。
だが残された幼い異母弟の行く末は気にかかり、バイト先のキャバクラの名刺を渡す姉には笑いながらホッコリしてしまう。親は身勝手に生きているが、子ども同士は助け合わなければという気遣いが見える。
姉妹は優等生でも不良でもないごくフツーの女の子で、母は宝くじ売り場の販売員。母は養育費も受け取らずに姉妹を育てた気丈な女性で、姉妹はそんな母を「金融界のエリートですから」と誇らしげに言い切る。姉妹は父の死を巡って本音でぶつかり合い、そんな姉妹を母は静かに見守る、母と娘の強い信頼と女同士の深い絆が見えてくる。父だけでなく母性(乳)も描きたいというタイトルの「チチ」の意味あいがここにあるのだろう。
登場人物それぞれの感情の機微が繊細に描かれ、起こっている出来事は重いはずなのだが、適度に笑いあり、涙あり、妙に吹っ切れた爽快さがある。突っ込みどころは多々あるものの、後味がいいので許せる。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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