『ヤンヤン夏の想い出』エドワード・ヤン

家族の愛と死、人生の真理を温かい眼差しで描く監督の遺作

ヤンヤン 夏の想い出

《公開年》2000 《制作国》台湾
《あらすじ》台北に住む小学生のヤンヤン(ジョナサン・チャン)の家庭は、両親と姉、祖母の5人家族である。
父NJ(ウー・ニェンチェン)は友人とコンピュータ会社を共同経営、母ミンミン(エレイン・ジン)は別の会社で働き、姉ティンティン(ケリー・リー)は有名女子高に通い、それに母方の祖母がいる。混乱の元となるのが叔父(母の弟)アディで、めでたく出来ちゃった婚をするのだが、混乱の結婚式で祖母が倒れ、入院したが、昏睡状態のまま自宅療養となる。また、隣にリーリーというチェロ演奏家志望の娘とその母が越してきて、リーリーとティンティンは親しくなる。
結婚式ではもう一人、父NJが20数年ぶりに初恋の人シェリーと再会する。その彼女はシカゴ在住で、後にもう一度人生をやり直そうと迫られ、東京や熱海で逢瀬がかなう。二人とも初恋の頃に戻ろうとするが、距離は縮められず元の暮らしに戻った。
並行して進むのが姉ティンティンの恋。隣のリーリーには恋人らしき男性がいたが、新しい男が出来たらしく、最初はリーリーに執心していた元カレがティンティンになびき、ティンティンもその気になったら、その元カレはリーリーとヨリを戻して、実はリーリーの母親とも付き合いがあったらしく、母親の恋人の英語教師を刺殺してしまって恋は幕を閉じる。
ヤンヤンにも初恋のような出来事があって、それはいじめっ子の女子の頭目らしき水泳上手の活発少女。ヤンヤンはプールに飛び込み、潜水の練習に励み、ただ一人恋のための冒険に取り組んでいる。
やがて祖母が亡くなり葬儀の日、ヤンヤンは祖母に向かって、自らノートに書きつけた思いを朗読してエンド。



《感想》いろんな人の恋愛話、祖母の死をめぐる思い、父・母が抱える悩み、みな生き生きと描かれ、それぞれの人生の節目を垣間見ることになる。
ヤンヤンが他人の後ろ姿の写真ばかりを撮ったというエピソードが面白い。冒頭、ヤンヤンが父に「真実の半分って知ることが出来るの?」という質問をする。それは鏡に映った姿で自分の正面は見ることが出来るが、自分の後ろ姿は見えないからだと言う。彼なりにその答えを探していたのだろう。自分に見えるのはほんの一部、後ろ半分は誰かに見てもらうしかないし、全体の真実は他人の手を借りて共に探すしかない、そんな真理を言いえている。
またラスト近く、父が母に告白する言葉が印象的。「青春をやり直すチャンスに巡り合ったが、結果はほとんど同じだった。人生をやり直すチャンスなんて必要ない。一度でいい」。これが遺作になる同監督にとって、特別な思いが込められているのかも知れない。明るいトーンと温かい眼差しに満ちた秀作。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、良品発掘。そして、世間の評価に関係なく私が心動かされた映画だけ、それがこだわりです。やや深読みや謎解きに傾いている点はご容赦ください。 映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があります。「いやぁ~映画って本当にいいものだ」としみじみ思います。