残酷だった子ども世界を思春期から振り返ると……。
《あらすじ》石田将也はクラスのガキ大将、その小六のクラスへ耳と言葉が不自由な西宮硝子が転入してくる。
最初は友好的だったが、周囲にだんだん疎ましさが生じ、硝也は退屈しのぎからいじめるようになり、そのいじめに加担する者、硝子に優しく接したがために偽善者とのけ者にされ不登校になった者、それから傍観者……。
高額な補聴器が壊されたことから学校問題になり、将也が責任を負う形になって、次第に将也がいじめのターゲットに変わってしまい、かつていじめに加担していたものも離れていく。
将也は孤独なまま人間不信に陥って、高校3年になった今、硝子をいじめた後悔から手話を習い、硝子に謝ってから自殺しようと考えていた。そして硝子に再会し、かつてのクラスメートが顔を合わせる。将也に好意を持つ女子は硝子にきつく当たり、かつての悪ガキ仲間との仲を取り持とうとするが、将也にとっては切り離したい過去と拒絶される。自分一人でいじめた訳ではないと将也は言うが、傍観者は目をそらし、結局互いを責め合い責任を押し付け合う結果となった。
そして夏の花火大会、仲良くなった硝子家族と共に出かけた将也は、先に帰宅した硝子がベランダから飛び降りようとするのを助け、反動でベランダから落ち、一命は取り留めたものの昏睡状態に陥る。
退院したのちの高校文化祭、将也と硝子は過去の悔恨、罪悪感と決別し、前向きに生きることを誓い合い、再び出会った仲間たちからも受け入れられエンド。
《感想》原作は大今良時の「週刊少年マガジン」連載の漫画。
軽い気持ちで観始めたが、あなどれない。子どもの世界は残酷さに満ちていて、振り返ると誰しも多少覚えがあって、観ていて辛いが、大人になった今観てもきっと心に響くはず。
イジメはテーマの一つだが、それだけでなく、コミュニケーションの難しさ、少年期から思春期に至る心の成長もテーマになっている。このキャラ設定と繊細な感情表現は高く評価したい。
一つ不満を言うなら、葛藤は丁寧に描かれていたものの、和解へのプロセスが省略し過ぎ。でも全7巻の原作を2時間の映画にしたのだから、やむを得ないという気もする。
アニメを観るとき、いつも声優の表現過多が気になるのだが、この映画ではろうあ者特有の声にならない擬音を、硝子役の早見沙織が見事に表現していた。むしろこの物語を実写でやったらスベるような気がするし、アニメの表現領域だと思う。
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