孤独な男たちの嘘と優しさを淡々と描く
《公開年》1995 《制作国》アメリカ、日本、ドイツ
《あらすじ》ブルックリンの街角で小さな煙草屋を営むオーギー・レン(ハーヴェイ・カイテル)は14年間、同じ時刻に店の前で写真を撮っていた。
店の馴染み客で親友でもある作家のポール・ベンジャミン(ウィリアム・ハート)は数年前に妻が銀行強盗事件に巻き込まれて亡くなって以来、ペンが持てなくなり悩んでいた。
ポールが車に轢かれそうになったのを黒人の少年トーマス(ハロルド・ペリノー・ジュニア)が助けて二人の親交が始まるが、彼は強盗現場の拾ったことでギャングに追われていて、一方で生き別れた父親サイラスを探していた。
オーギーの元へかつての恋人ルビーが訪れ、二人の間の娘(という)フェリシティが妊娠してピンチだと助けを求めてくる。いざ娘に会うと、子どもは堕ろしたと言い、二人は追い返されてしまう。
トーマスは父親に再会できたが、偽名を名乗っていたことがバレて一時は混乱し乱闘になったが、落ち着くとピクニックのテーブルを囲んで、各々が放心したように、葉巻をくゆらせるのだった。
数か月後、ポールは新聞社からの原稿依頼でクリスマス・ネタを探していて、尋ねられたオーギーは次のエピソードを話した。
「昔、万引き犯が逃げる途中で落とした財布から家を訪ねると、盲目の老女がいて、自分を孫と思い込んだから(実際は別人とわかっていて楽しんでいたようだが)、話を合わせて一緒にクリスマスを過ごした。老女が寝た後、部屋に多くのカメラがあったので、財布を残してカメラを1台失敬し、今、撮影に使っている」。話を聞いたポールは「いいことをした。人を幸せにすることは生きていることの価値だ」と言い、その話の原稿を書き始める。
更にポールは「うまく出来たフィクションだろう」と指摘するが、オーギーは「秘密を分かち合えない友達なんて、本当の友達と言えるか?」とはぐらかし微笑んだ。
《感想》オーギーが話すエピソードの真偽は曖昧だが、全てがオーギーのキャラを中心に、煙草の煙のように緩やかに流れていて、妻を事故で亡くした孤独な作家への思いやりで溢れている。
毎日同じ時刻に、店の向かいから店の正面の写真を撮る煙草店主、同じように見えて日々異なる風景、それは街角の記録であると同時に、生きてきた証しでもある。喪失感から仕事が手につかない作家、自分を捨てた父親を偽名を使ってまで追い求めている少年。みな孤独を抱え、切なさ一杯の男たちが嘘と本当を巧みに織り交ぜながら生きている日常を、温かい眼差しで描いている。
淡々としていていい。
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