人生悪くない、そう隣人に教えられた
《公開年》2015 《制作国》フランス
《あらすじ》フランス郊外の古ぼけた団地を舞台に、三つのオムニバスドラマが並行して描かれていく。
1.エレベーター改修に反対した中年男・スタンコヴィッチは、事故で車椅子生活になりながら、公にエレベーターを利用できず、深夜に病院の自販機に通ううち夜勤の看護師と知り合い親しくなる。写真撮影を口実に会う約束をした夜、突然エレベーターが故障し、車椅子で行くことを諦め不自由な脚で向かったが朝になってしまい、夜勤明けの彼女は怒ったものの、むしろ距離が縮まり不器用な恋が実る。
2.団地に住む青年・シャルリの隣の部屋にかつての人気女優・ジャンヌが越してきたが、彼女は忘れられた存在でありながら未だにヒロインとしての再出発を夢見ている。ドアのトラブルから隣人として交流が生まれ、若者の「悪役の老婆役も魅力的」のアドバイスとPV撮影の協力を得て、ジャンヌは今までのプライドを捨て、舞台女優として再出発する決心をする。
3.NASAの宇宙飛行士・ジョンは団地の屋上に不時着し、アルジェリア系移民の女性・ハミダの世話になる。NASAから不祥事隠しのためしばらく厄介になるよう指示された青年を、言葉は満足に通じないながら、彼女は(収監中の)我が息子のようにもてなし、青年は母の手助けをするようにこわれた排水管を直したりする。親子のような親密さを育んで、青年はアメリカへ帰って行った。
《感想》隣人によって導かれていく運命があれば、隣人との関わりで自分が見えてくることもある。隣人は時に力強く引く糸であり、時には鏡でもある。
車椅子生活を余儀なくされたサエナイ中年男、落ちぶれた女優、不時着した宇宙飛行士、三人とも孤独な境遇にあって、ある者は自分の人生に行き詰まりを感じ、ある者は不測の事態に陥って困惑している。そんなとき現れたのが、今まで全く無縁だった、いわば自分の人生の枠外にいた人で、そんな人たちが迎え入れてくれ、立ち直るきっかけを作ってくれるという不思議な出会い。その人の人生に自分を照らすことで、自分が何をなすべきか見えてくる、そんなこともあるような気がする。
アスファルトの道路は味気なく人工的で、その上に立つ団地も画一的な暮らしを想像させるが、住んでいる人たちのささやかな交流、ささやかな人生の営みが優しく温かく描かれている。人生悪くない、そんなメッセージが聞こえるフランス製の人情ドラマ。セリフに頼らず、登場人物の所作でその感情を表出させる、その演出力に脱帽した。
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