謎に包まれた暗殺事件をめぐる青春群像劇
《あらすじ》大政奉還後の渦巻く陰謀と策略の中で、幕府と薩長を行き来し、長崎のイギリス商人と裏でつながりながら、現実と理想の間を綱渡りしていた坂本竜馬。その竜馬が暗殺されるまでの3日間を描いている。
1日目:身の危険を感じて近江屋の土蔵へ逃亡した竜馬(原田芳雄)だったが、佐幕派、勤皇派双方から「危険な思想家」として狙われ、かつての同士、陸援隊隊長・中岡慎太郎(石橋蓮司)や新撰組からも狙われていた。
竜馬は質屋の息子、慎太郎は庄屋の息子という幼なじみで、捨てがたい友情で結ばれていて、近江屋の娘・妙(桃井かおり)は、かつては竜馬の恋人、今は慎太郎の恋人という間柄にあった。
近江屋へ移った竜馬は、向かいの質屋に囲われている遊女・幡(中川梨絵)と知り合い急接近するが、幡の元には新撰組隊士・富田が通っていた。
一方、竜馬を狙う薩摩藩から仕向けられた刺客・右太(松田優作)がいて、この右太は幡の弟だった。
2日目:竜馬は狙われていることを知りながら、集団舞踏「ええじゃないか」の群れに紛れ込んで、幼なじみの慎太郎に会いに行く。一方、幡は痴話喧嘩のはずみで富田を殺害してしまう。
3日目:土倉から近江屋の二階に移った竜馬と慎太郎は、何者かの手によって暗殺され、薩摩から送られてきた右太も結局竜馬を斬れず、巻き添えで殺されてしまう。暗殺の目撃者である幡は、折からなだれ込んだ「ええじゃないか」の群れに紛れ込んで消えてしまう。
《感想》脚本は清水邦夫と田辺泰志で、粒子の粗い16ミリ撮影、モノクロ映像で仕上がっている。
映画は、竜馬や慎太郎が暗殺された「近江屋事件」の真相に迫るというより、男三人、女二人の愛憎劇であり、青春群像劇である。男にとっては理想と現実の狭間でゆれ、苦悩し葛藤する姿であり、女たちは騒乱の世に身を投じて死にゆく男たちを横目にしたたかに生き延びていく。
幕末という狂気の時代、その極限状況の中で、竜馬と慎太郎だけがまともな人物のように映る。竜馬は女遊びに走り、倒幕という革命思想にも疑問を持ち、慎太郎も竜馬暗殺の使命を持ちながら果たせず、むしろ陸援隊の同士をせせら笑っている。結局、時代の狂気に染まらず正気を保とうとしたが故に、周囲との軋轢が生じて殺されたのではないかという気もする。
74年はまだ革命が謳われていた政治の季節、その状況下で理想を求める若者らにも同じような孤独や葛藤があることを投影させようと、あえてモノトーンのざらついた画調にしたのだろうか。歴史ドラマというより、ドキュメンタリーに近い迫力を生んでいる。
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