孤独な「反仁義」ヤクザの愛と死
《あらすじ》終戦直後の新宿、石川力夫(渡哲也)は河田組(ハナ肇)に身を置くが、ヤクザと三国人勢力の抗争が続く混乱の只中にあって、大親分野津組(安藤昇)や新興の今井組(梅宮辰夫)、池袋親和会(今井健二)らの抗争が激化していた。
今井は石川の兄弟分にあたり何かと面倒を見てくれているが、石川の凶暴性、破壊衝動はとどまるところを知らない。
石川はこの抗争の最中に知り合った置屋の女・地恵子(多岐川裕美)を強姦して情婦にする。また、賭場での悶着から野津の車に放火をし、それを叱責した河田を刺して逮捕されるが、出所後は関東所払いとなり、出向いた大阪でヘロイン中毒になる。
1年後、すっかり身体を蝕まれた石川は帰京し、今井の元に身を寄せるが、東京から遠ざけようとする今井と悶着を起こし、今井を射殺し、逃亡して警官隊と銃撃戦の末逮捕される。
保釈金を工面するなど石川を献身的に支えた地恵子は、肺を病んでいて、石川が病気治療のため仮出獄する数日前、自ら命を絶っていた。火葬を終え、手を震わせながら骨をつまんで骨壺に納める石川の両目から流れる涙は、サングラスに落ち頬を伝って灰の上に滴り落ちた。地恵子の骨壺を抱き河田組を訪れた石川は、その遺骨をかじりながら河田に土地と金をせがむが、その狂気的な様に周囲は凍ってしまう。
石川は自ら手を下した今井の墓参に訪れたところを襲撃され、生き延びたが病院生活を経て再び刑務所に収監された。そして、亡妻地恵子の三回忌の日、「大笑い三十年の馬鹿騒ぎ」の辞世の句を残して、刑務所屋上から身を投げた。
《感想》石川は親分や兄貴分に対し激情に任せて襲い、愛人を金のために売ってしまう、まさに「仁義なきヤクザ」で凶暴にして制御不能な男。この行動原理は誰にも理解し難いのだが、この滅びの美学に純粋さを見、自分の感情に正直に生きる(そう生きるしかない)男の不器用さには肩入れするしかなく、だから地恵子の骨を拾い、それをかじるシーンでは涙腺が緩んでしまう。壮絶な愛情表現であり、その意味合いと反仁義という点で、異端のヤクザ映画と言える。演じた渡の鬼気迫る表情と不気味な迫力は圧倒的だった。
また、組織内でうまく生きることが出来ず、感情の赴くままやりたいようにやって自滅していく、誰からも称賛されない孤独な若者像を描いている。だから、ヤクザ社会に限定した話ではなく、破滅型青春映画の普遍性も持ち得ているのである。暴力性は理解し難くとも、時折見せるピュアな切なさに涙してしまう。そして暴力性のベクトルが大きいほど哀しみの度合いも深まる。この映画はその頂点にある。
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