『若者のすべて』ルキノ・ヴィスコンティ 

貧しさから結束する家族が、都会で崩壊する悲劇

若者のすべて

《公開年》1960 《制作国》イタリア、フランス
《あらすじ》パロンディ家の未亡人ロザリオには5人の息子(長男ヴィンチェンツォ、次男シモーネ、三男ロッコ、四男チーロ、五男ルーカ)がいて、既に長男が移り住んでいるミラノに、南部の田舎町から家族全員でやってきた。
長男には婚約者ジネッタ(クラウディア・カルディナーレ)がいて堅実な生活を営んでいるが、次男シモーネ(レナート・サルヴァトーリ)はボクシングの才能を見込まれながら練習に身が入らず、娼婦ナディア(アニー・ジラルド)と遊び暮らし堕落していく。
三男ロッコ(アラン・ドロン)はクリーニング店に勤めたが、シモーネが店で盗みをしたのがバレてクビになってしまう。折しも徴兵のため街を去るが、1年2か月の後、ロッコは街で、出所したばかりのナディアと偶然出会い、二人は恋に落ちる。退役しボクシングの才能を見込まれたロッコはジムにスカウトされ、別人のように真面目になったナディアと暮らすようになるが、激しく嫉妬したシモーネに襲われて仲を裂かれ、ロッコはシモーネのためにナディアから身を引き、ボクサーとして活躍するようになる。
よりを戻したシモーネとナディアは自堕落な生活を送っていて、ロッコはシモーネの借金を返済するためタイトル戦に挑む。一方、シモーネと別れたナディアは再び娼婦の暮らしに戻っていたが、シモーネに復縁を迫られ、罵り合いからシモーネに殺されてしまう。
ロッコの祝勝会に現れたシモーネをかばおうとするロッコと、警察に通報しようとする四男チーロ。やがてシモーネは逮捕され、末っ子ルーカに責められたチーロは「都会での生活が善人シモーネを破滅させ、ロッコの寛大さがそれに輪をかけた。自分が誰よりもシモーネを愛している」と話した。



《感想》当時のイタリアでは南北の経済格差があり、貧しい南部から経済的に発展している北部への移民が横行していて、この家族もその一例だった。
都会暮らしを始めると、若者の生活は大きく変わっていく。恋愛にときめき、遊興に浸り、そして都会の誘惑に負けた者は堕ちていく。
長男と四男は都会の暮らしに溶け込み、しっかりポジションを確保しているが、次男シモーネは享楽に溺れて堕落してしまう。
三男ロッコはボクシングで成功しながらも、都会の生活に嫌気がさしていて、恋人だった女性を兄に奪われても、堕落した兄を必死にかばって、度を越した善人ぶりを発揮してしまう。
この両極端の二人は、最後に弟チーロによってしっかりと断罪されている。
出来過ぎ善人キャラのロッコを若き日のアラン・ドロンが熱演している。
ナディアを演じたアニー・ジラルドも二人の間で揺れ動く気持ちを見事に表現しているし、端役のC・カルディナーレもその目力に将来を予感させるものがある。
長尺だが、冗長というほどでなく、兄弟間の確執が濃くなるにつれ緊張を盛り上げていく巧さはさすがで、見応えのある作品になっている。

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投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、良品発掘。そして、世間の評価に関係なく私が心動かされた映画だけ、それがこだわりです。やや深読みや謎解きに傾いている点はご容赦ください。 映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があります。「いやぁ~映画って本当にいいものだ」としみじみ思います。