貧しく病む者と医師の交流、人間愛を描く
《あらすじ》小石川養生所の座敷牢にいる若く美しい女(香川京子)を赤ひげ(三船敏郎)は先天性狂的骵質と見立てるが、青年医師保本(加山雄三)は誤診と指摘し、禁を犯して接近し危うく殺されそうになり、その見立ての正しさを知る。
危篤状態の蒔絵師の六助(藤原釜足)の臨終に立ち会い、赤ひげから「病気の陰には、いつも人間の恐ろしい不幸が隠れている」と聞かされ、死後、娘のおくに(根岸明美)から六助の不幸な過去を聞く。保本はその死に顔に不幸を黙々と耐え抜いた人間の尊さを見るとともに、赤ひげの「病気の原因は社会の貧困と無知からくる」の言葉にうなずく。
車大工の佐八(山崎努)が危篤状態の中で、死んだ女房おなか(桑野みゆき)との物語を話す。地震をきっかけに失踪したおなかと再会した佐八だったが、その背には別の男の赤ん坊がいた。実は佐八に会って恋をし求愛を受けた頃には、既に恩義のある許婚がいたが、幸せ求めて佐八と一緒になったものの、この大地震、これは天罰とそれまでの幸福にケリをつけるために去ったという。そして我が身に短刀を向け、佐八に抱かれながら絶命していくおなか。それを語りながら今、佐八もおなかの待つ世に旅立っていく。
おとよ(二木てるみ)は岡場所で働く12歳の少女だが、貧困と虐待から身も心も病んでいる状態で、赤ひげに助け出され、保本がその治療を任される。人を憎み疑い深く、他人を寄せ付けない性格だったが、保本の懸命な看病に次第に心を開いていき、保本が高熱で倒れたときは必死に看病するまでになった。そこへ子ネズミと呼ばれる長次(頭師佳孝)が現れ、貧しさ故に盗みを働く長次のために食べ物を分け与えたり、盗みに目をつぶる優しさを見せるようになる。そんな長次一家の心中があって、瀕死の長次のために、言い伝えに沿って井戸に向かって名を叫ぶおとよだった。
《感想》原作は山本周五郎の連作短編で、小石川養生所を舞台に、貧しく病む者との交流の中で懸命に医療に取り組む若き医師と、貧しい中にあっても豊かな人間愛を描いている。
出演者では、香川京子の妖しげな美しさも、桑野みゆきの健気で儚い美しさも素晴らしいが、何といっても凄いのは二木てるみの演技。
当初はどこも見ていない硬直した目つきでひたすら床を磨く鬼気迫る表情だったが、次第に心がほぐれ、顔つきも柔らかく感受性豊かな少女に変わっていく。保本への淡い恋心、境遇の似た少年への姉のような接し方、そんな変化に周りの賄い女たちも変わっていく。少年との心の交流のシーンは特に美しく、涙腺が緩む。
長尺だが、全く飽きさせないドラマ作りがなされ、そのシナリオの完成度、演出力ともに確かな感動作。
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