死への旅を案内する代理店が謳う人生讃歌と未来予想
《公開年》2015《制作国》オランダ《監督》マイケ・ファン・ディム
《あらすじ》セレブな中年貴族ヤーコブ(イェルーン・ファン・コーニングスブリュッヘ)は幼い頃の父の死を受け入れきれず感情を失ったまま成長し、今、母の死をきっかけに生きることを諦めてしまい、自殺を試みるがうまくいかず、偶然出会った旅行代理店の裏メニューに「死への旅」があることを知る。
そこは希望する死に方を提供する店だったが、彼が選んだのは、どのように死ぬかわからないサプライズコースで、そこで同じく死を望む女性アンネ(ジョルジナ・フェルバーン)に出会う。ともに早い死を望みながら、少しずつ惹かれ合ううち生への執着が生まれ、ヤーコブは旅の延期を申し込みに旅行社に行くが、実はアンネこそがサプライズの実行者でファミリーの一員だった。
喜怒哀楽の感情を取り戻したヤーコブを愛していると知ったアンネは、ファミリーにそれを打ち明け、ファミリーはヤーコブが一員になることを条件にそれを許す。
ヤーコブに託されたサプライズは、かつて最も親しく暮らした執事のムラーで、愛する妻を失い死を望んでいて、出来れば愛する人に看取られて死にたいという希望から、ヤーコブの目前で服薬自殺をする。ヤーコブに生まれて初めて死を悲しむ気持ちが湧きあがり、ムラーの葬儀を終え、アンネと結ばれてエンド。
《感想》ラストは、死を望む気持ちから生への執着を見せ始めた男と、愛する人を失って死へと旅立つ男。自殺ほう助の話なのだが、映画は自殺を肯定するというより、残された者の悲しみを描き、生の尊さ、愛の尊さを描いている。それでいながら、現代社会が抱えている裏側のニーズがあることも示唆していて、ずっと深いところで、倫理観だけに縛られない独自の(宗教的な?)死生観が求められる時代が来ることを予言しているようでもある。
ブラック・コメディという要素は持つが、もっと大らかに将来を見据えた死生観(医療が進めば死は本人の選択?)を暗に示唆しながら、それでもエンディングロールに表現されるような生命讃歌(ダンスシーン)を謳っている。
この映画には、作り話の面白さ、予想を裏切る展開、コメディの中に「死と生」を突き詰めてくる真面目さ、いろいろ複雑な要素が混在していて、それでいてストーリーは難解ではなく、むしろシンプルであり、脚本の力かと思う。
ツッコミどころはあるのだが、奇抜な設定と抑制された笑いには、確かな知性と制作者を取り巻く風土のようなものを感じた。
加えて、ブリュッセルの美しい街並み、貴族のお屋敷の映像、音楽も素晴らしい。
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