戦後の新しい風に乗って変わる結婚観と家族の姿を描く
《あらすじ》間宮康一(笠智衆)は医者で、祖父母、妻子、妹紀子(原節子)とともに北鎌倉に住んでいる。紀子は28歳で貿易会社の専務秘書をしていて、同級生は未婚と既婚が相半ばし、40歳男との縁談が舞い込む。
紀子も幾分その気になっているが、間宮家に出入りしている矢部たみ(杉村春子)謙吉(二本柳寛)母子から、医師である謙吉の秋田への転勤を聞く。たみから何気なく言われる「紀子が嫁であったら……」という言葉に、謙吉こそ最も望んでいた結婚相手で、身近に過ぎて思いが及ばなかったことに気付く。
謙吉は子連れで、縁談の相手は名家の出ということもあって周囲は反対するが、紀子のたっての希望を通してやることにする。紀子は秋田へ去り、祖父母も大和の本家に引き上げて行って、その大和はちょうど爽やかな麦秋、という風景でエンド。
《感想》たみと紀子の会話。
たみ「ねぇ、怒らないでね、こんなこと言って。虫のいい話なんだけど、あんたのような人が謙吉のお嫁さんになってくれればと思っていたんだけど」
紀子「私で良かったら……」 たみ「えっ、本当?まあ、嬉しい、ありがとう。でもモノは言ってみるものよね」
謙吉の気持ちも確かめず危なっかしい会話だなと思ったのだが、ドッコイ、裏には母と子の既に通じ合っている心根があるのだと改めて感じた。心でキャッチボールする秀逸な会話だと思った。そんな会話が出来る(ある意味、家族が寄り添っていた)幸せな時代だったのかも知れない。
また、突然の結婚申し入れに(予想していたかのように)即座に承諾する紀子の態度にも驚いてしまう。謙吉は戦死した紀子の次兄・省二(登場しない)の親しい友人で、旧知の間柄でありほのかな思慕があったからこその即答なのだろうが、戦争で失った兄の不在を埋める存在として謙吉がずっと心の片隅にいたのかも知れない。切なくもあり、戦争の影を感じる部分でもある。
全編コメディタッチとも言えるほど明るさとのどかさに満ちているが、まだ戦後数年、戦地で行方不明のままの息子の存在を振り払おうとする家族の葛藤も見えたりして、復興の中の明るさと感じられる。
戦争の傷は残していながらも、女性の自立、身分や家柄重視の古い結婚観との決別、新しい時代の始まりを感じさせる。そして、不憫だと嘆きながらも娘の決心を尊重する家族の温もりが見える秀作。
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