幽玄、耽美的世界を描いた古典的ホラー
《あらすじ》『黒髪』生活苦の武士(三國連太郎)が貧乏に疲れ、妻(新珠三千代)を捨てて仕官の道を求めて遠い任地に向かい、幸い家柄・財産に恵まれた新しい妻を得たが、それはわがままで冷酷な女だった。
男は今更ながら別れた妻の深い愛情を知り、荒れすさんだ我が家に戻ると妻は温かく迎え、一夜を共にし目を覚ますと横に寝ていたのは妻の屍だった。
『雪女』若い木こり巳之吉(仲代達也)は森で吹雪にあって山小屋に閉じ込められ、仲間の老人が雪女に殺され血を吸われるのを目撃した。雪女から「口外したら殺す」と言われ命拾いをする。大人になった巳之吉は森の道で美しい娘・お雪(岸恵子)に出会い、妻に迎え子宝にも恵まれたが、ある夜、針仕事をするお雪の顔に、かつての雪女の面影を思い起こした巳之吉は、思わずその話を口にしてしまい、聞いたお雪は「それは私。子どもがいるから殺さないが……」と恨みを残して吹雪の中に消えた。
『耳なし芳一の話』盲目の琵琶法師の芳一(中村加津雄)は「平家物語」の壇之浦の合戦で亡くなった平家一門の供養のために建てられた寺に奉公していた。夜になると武士(丹波哲郎)が迎えに来て、高貴な人の邸で琵琶を弾くようになり、不審に思った寺男が後をつけると、そこは平家一門の墓前。平家の怨霊に憑りつかれたと思った住職は、芳一の身体中に経文を書き、怨霊の武士から芳一を守ることに成功したかに見えたが、耳だけ書き忘れたが故に武士に持ち去られてしまった。
『茶碗の中』武士関内(中村翫右衛門)は、ある日茶碗の中に若い男(仲谷昇)の不気味な笑い顔を見る。構わず関内は飲み干して帰ったが、その夜、その男が現れ、問答の末、関内は男を斬り男は消えた。次に男の家臣という侍が現れ、関内はこの侍を斬りつけ……と、この物語は明治になって某作家が結末のない奇怪な物語として書いたもの。作家のもとを版元が訪れたが、作家の姿が見えず、版元と作家の妻が書きかけの原稿に目を落とすと、「人の魂を飲んだ者の末路は……」の一文があり、近くの水瓶の中に作家が映り、手招きした。
《感想》怖い映画だが、今風のホラーではない。恐怖の源は「音」と「間」だと思う。武満徹の音楽は、決して恐怖を掻き立てる刺激的な音ではないが、劇中の音に付随音楽を重ねるようにして、恐怖を増幅させる効果を生んでいる。
とともに感心したのが間合い、鬼気迫るようなピーンと張りつめた空気感、この緊張感、恐怖感はこの「間」無くしてないだろうと思った。
小泉八雲の原作そのものが既に確立した世界観を持っているが、映像にすると文章とはまた別の、耽美的、幻想的な世界が具体に広がるものと感心した。
脚本水木洋子、美術戸田重昌(大規模なセット)も素晴らしい。
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