善人になり切れなかった男の苦悩と破滅を描く
《共同監督》アラン・マック《公開年》2003《制作国》香港
《あらすじ》潜入捜査官ヤン(トニー・レオン)の殉職から10か月が過ぎ、マフィアのボス・サムも死んだ今、一人生き残ったラウ(アンディ・ラウ)は、自分の過去と証拠を消してマフィアと決別し、善良な警察官として生きようと決意し、警察内部に潜入しているマフィアを次々と始末していった。更にラウは、切れ者警部のヨン(レオン・ライ)もサムの内通者ではないかと疑い、勤務する保安部に隠しカメラを仕掛け、ヨンの車に発信機を付ける。
また、ラウはヤンの主治医だったリー(ケリー・チャン)に近づき、診療所のPCを盗み出し、ヤンの診療記録をたどる。最初は睡眠療法に反発していたヤンだったが、次第にリーに心を開き、二人は愛し合うようになる。それを読むうちラウは心底ヤンを羨むようになり、善人として警官として死んだヤンになりたいと願うあまり、自分とヤンを同一視するようになっていく。
ラウはヨンの保管庫からテープを盗み出し、ヨンがサムの手下である証拠だと確信してヨン逮捕に向かうが、そこにマフィアのシェン(チェン・ダオミン)が現れ、全てが明かされる。実はシェンの正体は中国本土の潜入捜査官で、ヨンと組んでヤンの死の真相とラウの身元を探っていたのだった。ラウが盗んだテープには、ラウとサムの会話が録音されていたが、自分をヤンと思い込んでいるラウは、ヨンに向かって「お前を逮捕する」と叫び、既に錯乱状態にあった。行き詰まったラウはヨンの頭を撃ち抜き、自らも自殺を図るが死にきれずに障害が残り、精神病院に収容される。
リーの携帯には、自分をヤンと思い込んだラウからのメールが届き、ラウはかつて恋したサムの妻マリーが背後から自分を撃とうとする幻影に苛まれている。もはやラウは無限に続く地獄にいるかのようだった。
《感想》第1作では最後の勝者となったラウだったが、善人の道を生きようとしても、マフィアの内通者だった過去は消せず、秘密を抱えて生きていくうちに、徐々に精神のバランスを崩していく様が描かれる。その展開に絡むのが、いかにも裏がありそうなヨン警部と、見るからに凶悪そうで潜入捜査官には見えないシェンで、新たな二人の人物が意外な結末を演出する。
前2作に比べるとやや蛇足感は免れないし、ドキドキ感も今一つなのだが、ラウの切ない思いに引き込まれ、完全に常軌を逸してしまうクライマックスまでなだれ込む本作は、ラウ中心の映画だった。
改めて思うのは、善人と悪人の匂わせ方のうまさ。新たに二人の人物を加えて第1作の続きを作り、それが独立した人間のドラマとして、緊張感と完成度を維持している。そこが凄い。3作をもって香港ノワール最高作と思う。
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