『歩いても 歩いても』是枝裕和 2007 

家族という集合体の、それぞれの思いを描く

歩いても 歩いても

《あらすじ》夏の終わり、15年前に水の事故で亡くなった横山家の長男・純平の命日に家族が実家に集まる。次男・良多(阿部寛)は失業中で、子連れのゆかり(夏川結衣)と再婚していて、父親との確執が深い。
ゆかりは夫と死別し良多と再婚したが、子どもの前では前夫をまだパパと呼び、義母とうまく折り合えない。
父・恭平(原田芳雄)は引退した開業医で、子どもに跡取りを望んでいたが実現せず不満に思い、家長の威厳を重んじ頑固な性格。
母・とし子(樹木希林)は死んだ長男をいまだに思い、事故死の原因を作った若者を恨んでいる。
良多の姉・ちなみ(YOU)夫婦は、実家での同居を望んでいるが、良多が帰りにくくなるという母の反対で実現せず、不満に思っている。
それぞれの事情を抱え、思いを胸に秘めた家族が一堂に会し、食卓を囲み、思い出話に花を咲かせる。
墓参りが済み、事故死の原因を作った若者・今井が線香上げに来て一波乱あり、夕方にはとし子が、昔恭平が浮気していた時に流れていたという「ブルーライト・ヨコハマ」のレコードを聴かせる。
良太は、そろそろ今井を呼ぶのをやめようと提案するが、とし子にとって悲しみと憤りをぶつける相手と、提案を断ってしまう。夜に一匹のモンシロチョウが現れ、とし子は「純平が帰ってきた」と喜ぶ。
それから7年、両親は既に亡く、良多とゆかりの間には娘が生まれ、この年も家族で墓参りに訪れた。飛んできたモンシロチョウを前に、良多は娘に祖母の話を聞かせた。



《感想》家族それぞれに事情を抱え、親子の確執や、所詮他人の集まりに過ぎない家族内の遠慮が見え隠れして、温かいけれど切なくもある。みんな少しずつ挫折や失望や喪失を感じている。
向かいのおばあちゃんが倒れた時、何も出来ない引退医師は寂しいし、15年前に死んだ長男を思う母の愛の深さ(と言うより心の闇)は凄味がある。
親の老後を心配する息子は結局何も出来ず(間に合わず)、子連れの嫁は義母に気兼ねし、夫の前で愚痴をこぼす。
里帰りした子ども家族と老親のさりげない日常が、何事も起こらないまま、細かなエピソードを積み重ねるように綴られていく。
父、母、息子、嫁、家族間のそれぞれのバランスの取り方が絶妙で、ちゃんと息づいている感じだった。そして問題が起きないように仕向けていく、それぞれの思いが絡み合って、人間の内面のドラマを作り上げている。
ちなみにタイトルは、いしだあゆみ『ブルーライト・ヨコハマ』に由来し、夫が浮気していた頃に流行っていた曲で、母とし子(樹木)にとって“恨みの曲”になっている。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

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