『紙屋悦子の青春』黒木和雄 2006 

戦時下の、残された者どうしの青春を描く

《あらすじ》映画は病院屋上の老夫婦の回想から始まる。
昭和20年春の鹿児島の田舎町。悦子(原田知世)は兄夫婦(小林薫、本上まなみ)と共に暮らしているが、兄の後輩・明石少尉(松岡俊介)に思いを寄せていた。
その明石からの紹介で縁談が持ち込まれる。その相手は親友・永与少尉(永瀬正敏)で、同じ航空隊ながら明石は航空兵で永与は整備担当だった。戦況悪化の中、明日をも知れぬ明石は悦子の将来を永与に託し、悦子は秘めたる明石への思いがありながら朴訥な永与に少しずつ心を開いていく。
そして明石は特攻隊に志願して、出撃前夜、別れを告げに来る。追いかけることも出来ず泣きつくす悦子。
数日後、永与が明石の死を告げに訪れ、明石からの手紙を悦子に渡す。そして勤務地が変わることを告げ去ろうとすると、悦子から「ここで、いつまでも待っていますから、きっと迎えに来てください」の言葉。二人の思いが通じ、これからの長い人生、共に生きることを決意するのだった。
そして冒頭の現在、結婚し長年連れ添った永与と悦子が、永与が入院している屋上で、空を見ながらとりとめのない話をしてエンド。

《感想》原作は松田正隆の戯曲で、脚本は黒木と山田英樹が書き、映画は黒木の遺作となった。
原作が戯曲と知らずに観始め、会話劇風であり、長回しの静けさが何となく小津映画の雰囲気に似ていると感じていた。添い遂げて老いた夫婦の不自然なメイクや、冗長としか思えない会話、映画的にはマイナスでしかないのだが、演劇的には理解できる。若くして戦時下に出会った二人が、平凡につつましく、やや退屈な人生を送ってきたと思えば、変わり映えしない容貌も退屈な会話も、二人の歴史なんだというメッセージに受け取った。
静かな反戦映画で、戦争の映像は全くなく、むしろ食糧危機の市井の暮らしにほほえましい笑いがあったことが救いである。
そして「秘めたる思い」という死語になりつつあるものが、ストレートに感動を誘うというのも久しい。
戯曲の映画化の印象はぬぐえないが、俳優5人の演技が素晴らしく、映画としても秀作である。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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