『あの日の声を探して』ミシェル・アザナビシウス 

戦争の悲劇を、少年と兵士の目から多角的に描く

あの日の声を探して

《公開年》2014 《制作国》フランス、グルジア
《あらすじ》1999年のロシア軍によるチェチェン進攻によって、チェチェン共和国は焼け野原となり、冒頭はロシア兵士が手持ちカメラで撮った戦闘地域のシーンで始まる。
少年ハジ(アブドゥル・カリム・マムツィエフ)は両親を殺され、姉は泣き叫び行方が分からなくなり、ハジはまだ赤子の弟となりをひそめる。弟とともに逃げるが、赤子と逃げるのは無理と民家の玄関先に預け、行き着いたのは難民収容施設だった。そこでEU人権委員会の女性キャロル(ベレニス・ベジョ)に出会う。
並行してロシアの若者コーリャ(マクシム・エメリヤノフ)の姿が描かれる。警察に逮捕され、軍に強制入隊させられ、キャンプ地で遺体処理するうち徐々に心は沈んでいくが、いつしか暴力にもまれ、軍隊組織の処世術を学んでいき、変わっていく。飛び立つヘリコプターの下に忍び込むスリルを味わい「エキサイティング!」と叫ぶ。そんなことに生きる喜びを感じるようになり、ほどなく前線に送られる。
一方のハジは失語症になり、キャロルの世話になるが、うまくコミュニケーションがとれない。キャロルとハジは少しずつ歩み寄っていき、ハジは身の上話をするようになって、弟探しに施設を訪れた姉と再会を果たす。
前線でのロシア兵コーリャは、人を撃つことにも馴れ、老人や子どもを「獲物」と呼び、戦死した兵士から金品を奪う、他の兵士と変わらない姿になっていた。冒頭で使われたチェチェンの映像は、コーリャが奪ったビデオカメラで撮ったものだった。



《感想》ロシア軍のチェチェン進攻で両親を失い、姉が行方不明になった少年ハジは逃げ惑ううち、EU女性職員キャロルに出会い、救われる。
一方、ロシアの若者コーリャは、強制入隊させられた後、暴力にもまれ、いつしか戦場のスリルに生きる喜びを感じるようになる。
ハジとキャロルの交流、ハジの姉の弟探しの展開は予想通りとも言えるが、加害者であるロシア兵の視点が加わることで、多角的に全貌が見えて、ドラマに膨らみを与えている。
戦争の悲惨に加え、戦争によって声を失った少年の救済と再起、そして戦争によって変質していく青年兵士の心の軌跡が描かれる。
この並行して描かれる二つの物語は戦争の狂気の中で生まれ、映画の中では明るいエンディングを迎えない。
しかも、古い過去の話ではなく、身近な十数年前の話となれば、このメッセージは重い。
逃げ惑う少年だけでなく、平凡な若者から精悍な軍人へと変貌していく兵士もまた戦争の被害者だと言える。
争いを生む悲劇がより深く濃く描かれている。
荒涼とした風景の中で残虐な行為が繰り広げられ、決して楽しくはなく気分は沈むが、目をそむけることなく観て欲しい戦争と人間を描いた秀作である。

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投稿者: むさじー

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