野獣の血が死を求め、殺戮に走る様はまさに狂気
《あらすじ》刑事を襲って拳銃を強奪し、その拳銃を使って裏カジノから現金を奪う伊達(松田優作)を描くところから始まる。
趣味はクラシック音楽で、コンサートで知り合った令子(小林麻美)に好意を寄せられるが、近づこうとしない。たまたま知り合ったウェイターの真田(鹿賀丈史)に自分と同じ野獣の血を感じ、銀行襲撃の相棒に引き込む。あらかじめ銀行を下見し、嘘の通報をして警察が着くまでの時間を計り、真田には、銃器の扱いに慣れてもらうため女友達を殺させたりする。殺すことにためらいを持たない、まさに「野獣性」を身につけるための訓練である。そんな彼を追うのが、冒頭で上司を殺された刑事の柏木(室田日出男)。
銀行襲撃は13名を射殺して(その中には偶然居合わせた令子がいた)伊達と真田は逃走するが、追ってきた柏木と夜行列車で対決する。車中で拳銃を向けたのは柏木だが、後ろから真田がライフルを向けて銃を取り上げ、伊達の「リップ・ヴァン・ウィンクル」の物語が語られ、伊達が柏木を射殺し、二人は車窓を破って逃げる。
そして逃走途中の地下室で伊達は「人を殺すことによって神を超えられるんだ!」と真田を射殺する。
場面は変わってコンサート会場にいる伊達だが、隣は空席(冒頭では令子がいた)で居眠りし、気が付いた時には会場には誰もいなくて、外に出ると音なき銃弾によって伊達が倒され、血で汚れた柏木の姿が見え、粒子の荒れた伊達のストップモーションの画像でエンド。
《感想》原作は大藪晴彦だが、脚本(丸山昇一)段階で大幅に変更されている。原作は主人公の伊達が野性的なタフガイのハードボイルド小説だが、映画の伊達はもっと陰湿な不気味さと狂気を持った人物にしている。
マーティン・スコセッシ「タクシー・ドライバー」の影響を受けていて、そこに描かれた、ベトナム戦争で病み屈折した元従軍兵士ロバート・デ・ニーロを想わせる戦場カメラマンの主人公を作り上げたという。だから原作のワイルドで脂ぎった伊達でなく、奇矯なくらいにエキセントリックな人物像になっている。
松田の瞬きせずに相手を見つめる様は人格破壊者の狂気を帯び、まさに鬼気迫る怪演。小林の存在感のない妖艶さ、鹿賀の脂ぎった若さ、室田の汗で演技する凄さ、加えて製作スタッフと出演者の熱さが感じられる。
ラストシーンは謎に包まれていて、「すべて伊達の夢うつつの世界だったという説」「柏木が死んでいなくて、彼と特殊部隊に狙撃されたとする説」その他諸説あるらしい。
松田優作の最高傑作と思っている。
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