『あん』河瀬直美 2015 

差別や偏見がもたらす不幸を、静かに優しく描く

《あらすじ》春のある日、どら焼き屋の雇われ店長・千太郎(永瀬正敏)のもとに、徳江(樹木希林)という76歳の女性が働きたいと訪れる。
高齢なため断ったが、再び訪れたとき手製のあんこを置いていき、それを食べた千太郎はあまりの美味しさに感動し働いてもらうことにする。
一緒に作ったあんが評判を呼び行列店になったが、ハンセン病患者という噂が立ち、オーナーから辞めてもらうよう言われ、客足も遠のく。
その間、みせの常連客で家庭的に恵まれない中学生のワカナ(内田伽羅)と仲良くなり、徳江は毎日幸せそうに仕事をしていたが、自分のことで見せに迷惑をかけてはと、自ら辞めていった。
徳江のその後が気になった千太郎とワカナは、徳江が暮らすハンセン病患者収容施設に出向く。徳江から一緒にお店をやっていた頃が一番楽しかったという話を聞き、涙ぐむ千太郎。自分なりのあんを作れと勧められ、千太郎とワカナは塩味のあんの研究に取り組むが、そこへオーナーから、甥と一緒にお好み焼き屋を兼ねた店舗にすると言われる。
すっかりやる気を失った千太郎とワカナは再び徳江を訪ねるが、3日前に他界し、あん作りの道具一式が残されていた。
再び春、公園の桜の木の下で一人どら焼きを売る千太郎、その姿は今まで以上に張りに満ちていた。

《感想》静かで美しい、そして重く深い。
ハンセン病患者の人権問題にスポットを当てるのではなく、生きることの尊厳を奪われた人たちが、許された範囲の中で懸命に、そして淡々と生きていく姿を描いている。
「自由に生きたかった」徳江を守ってやれなかった千太郎の罪悪感と虚無感、ハンセン病に限らず偏見がもたらす不幸、それは当然重いのだが、重くなり過ぎないよう優しさと美しさのオブラートに包んでいる。
演技陣がみなハマっている。樹木は演じるというより、徳江という老女が憑依したかのよう、永瀬は過去を引きずる無口な男を好演、内田は前作(11年是枝裕和「奇跡」)から4年経ち数段存在感を増している。
河瀬のそれまでの作品群とは全く異なる感動作。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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