『妻への家路』チャン・イーモウ 

文化大革命がもたらした悲劇と、耐える夫婦愛を描く

《公開年》2014 《制作国》中国
《あらすじ》文化大革命が進む1970年代に「右派」として捕らえられたルー・イエンシー(チェン・ダオミン)は強制労働所から逃亡し、妻フォン・ワンイー(コン・リー)に会いに来るが、会えず「明朝8時に駅の陸橋で」のメモを残して去る。
一人娘タンタン(チャン・ホエウェン)は舞踊学校生徒でその実力は秀でているが、父親の影響があって主役の座を射止めるのは難しい状況にある。父親の逃亡を知り、会いに行こうとする母親の気持ちも察し、公安から「情報提供すれば主役に推薦する」と甘い言葉をかけられ、タンタンは密告してしまう。そしてルーは逮捕され、フォンは心の傷を負う。
それから3年経ち「右派の罪を解く」という共産党の処置によってルーの名誉は回復し身柄も解放されたが、三人の家族はバラバラに切り離されてしまった。フォンは密告した娘タンタンを許さず、タンタンは紡績工場の寮で暮らし、フォンは心因性記憶障害という病気を発症し、訪ねてきた夫ルーの顔が判別できないようになる。
ルーは妻の記憶を取り戻そうと、医師から勧められた「デジャブ(既視感)の活用」という治療法に取り組み、家族アルバムの写真、昔懐かしいピアノ曲、夫が読み聞かせる手紙、と試みるが、効果が生まれない。
フォンとタンタンの母娘関係の現状に心を痛めたルーは、フォンを諭して一緒に暮らすように仕向け、三人の距離は縮まるが、フォンはまだ「ルーが誰なのか」特定できず、親切で近しい間柄の人になっている。
それから数年、初老を迎えた二人の関係は変わらない。タンタンが母の介護をし、「夫が5日に帰ってくる」という手紙の記憶を信じ駅まで迎えに行くフォンに、ルーは辛抱強く付き合っている。

《感想》雪の中、夫を待ち続ける妻、その隣には来るはずのない自分を一緒に待ち続ける夫、こんな風に支え合う夫婦の形もあるのか。切なくて、温かくて……かつて中国映画が持っていた繊細で大らかな温かさを感じる映画。
チャン・イーモウは「初恋のきた道(99年)」らの抒情路線から「LOVERS(04年)」らの娯楽活劇路線になっていたが、本作は原点回帰し更に大きくなって、しみじみと悲劇に耐える夫婦愛を描いている。
夫が何度も試みる対処療法がことごとく失敗し絶望の淵に立つが、それから先は諦念も踏まえた愛の持ち方、愛されなくても愛することによって生きられる、切ないが二人が到達した結論である。
コン・リーの記憶障害の演技が素晴らしく、涙を誘った。また、新人チャン・ホエウェンのバレエの演技も目を引く出来で、母娘が和解した際に見せた室内のバレエは特に美しい。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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