『東京上空いらっしゃいませ』相米慎二 1990 

牧瀬里穂が躍動するゴースト・ファンタジー

《あらすじ》キャンペーンガールのユウ(牧瀬里穂)はスポンサー会社専務の白雪(笑福亭鶴瓶)に関係を迫られ、車から飛び出して事故死してしまう。
だがユウは天国で出会った死神のコオロギ(鶴瓶二役)をだまして、自分の姿のまま地上に舞い戻り、マネージャーの雨宮(中井貴一)のマンションに転がり込む。自分が死んだことを知っている人に会うと混乱するため、その人たちには会えないが、白雪が事故を隠ぺいしキャンペーンを続けているため、世間ではユウがまだ生きていると思われていて、地上でひたむきに生きていこうと頑張る。
ところが一転、白雪が計画変更し、ユウの死を公表して追悼番組を企画したため、雨宮はユウが地上で生きていけるよう、白雪に取引を持ちかける。それは雑誌記者が持つ事故現場の写真と引き換えに、ユウのキャンペーンを続行させようというもの。
しかし、自分の死を知っている人に会えば下界に留まることはできないとコオロギに言われているユウは、窮地に立った雨宮を秘かに救い出して逃げる。次第にユウと雨宮はお互い惹かれ合うようになるが、ユウは天国に行く決心をして、雨宮を置いて、コオロギとともに東京上空に舞い戻っていく。



《感想》牧瀬里穂のデビュー作で、全編ハツラツとした魅力に溢れたゴースト・ファンタジー。ハンバーガーショップの大量調理の早わざ、屋形船の上で過去を振り返りながらバラを1本ずつ投げ捨てるシーン、雨宮のトロンボーンに合わせ歌うダンスシーン、流れる曲は井上陽水「帰れない二人」。
この時代のアイドル映画としては上出来。荒唐無稽さは否定できず、ヒロインの演技もイマイチ……でも、ファンタジーとコメディのバランス感覚が絶妙で、ゴーストである彼女が生き生きと生きれば生きるほどに、迫りくる終わりを予感させて切ない。牧瀬の飛び切りの笑顔と躍動感、それを長回しで見守る相米の優しさで成り立っている映画。
長回しから生まれる躍動感を感じたのは「屋形船のシーン」。カメラを固定し、演じ手を凝視し続けることから、(アクション無しでも)人の気持ちの躍動感とか、生々しい感情の揺れが伝わってくるものと感じた。一見退屈で凡庸な演出と思われるが、実はすごいことかも知れない。
本作は、80年代角川アイドル映画の延長線上にある。相米「セーラー服と機関銃(83年)」、大林宜彦「時をかける少女(83年)」、森田芳光「メインテーマ(84年)」。相米は一生懸命・躍動感、大林はよりシュールでファンタジー、森田は付きまとう生活感と真面目さ、それぞれに面白い時代だった。

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投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、良品発掘。そして、世間の評価に関係なく私が心動かされた映画だけ、それがこだわりです。やや深読みや謎解きに傾いている点はご容赦ください。 映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があります。「いやぁ~映画って本当にいいものだ」としみじみ思います。