『ジョゼと虎と魚たち』犬童一心 2003 

障害ある女性と愛に迷える学生の恋の行方は?

ジョゼと虎と魚たち

《あらすじ》大学生の恒夫(妻夫木聡)は、乳母車で散歩するジョゼこと久美子(池脇千鶴)に出会う。
脚の不自由な彼女の不思議な存在感と美味しい朝食に魅かれ、彼女の家に足しげく通うようになる。しかし、恒夫が好意を寄せる同級生の香苗(上野樹里)の存在を知り、ジョゼは恒夫を拒絶し「帰れ」と言う。
数か月後、同居するジョゼの祖母が急逝したことを知った恒夫は、ジョゼの家に向かう。ジョゼの孤独と本当の気持ちを察した恒夫は、ジョゼに寄り添うことを決め一緒に暮らし始める。その結果、香苗と別れてしまう。
恒夫とジョゼは動物園で虎を見る。好きな男性が出来たときに、世の中で一番怖いものを見るのがジョゼの夢だった。また、二人は初めての旅に出る。行きたかった水族館は休館だったが、その夜「お魚の館」というラブホテルに泊まり、「ジョゼは昔、深い海の底にいて、恒夫がいなくなったら、またそこに戻る」と話す。
そして数か月後、このアンバランスな恋愛は終わり、荷物をまとめた恒夫はジョゼの家を後にする。恒夫は待っていた香苗とともに歩き出すが、こらえきれず泣き出す。ジョゼは、ガランとなった部屋でいつも通り台所に向かって食事の支度をしている。



《感想》原作は田辺聖子の小説、脚本は渡辺あや。
映画のキャッチコピーは、「わすれたい、いとおしい、わすれられない」。しかし、現実は他者愛より自己愛を選んだ男、と言うよりその重荷に耐えられなかった男、でもラストシーンは日常を強く生きるジョゼのたくましさが印象的で、わずかな救いがあった。自ら言う「深い海の底」に戻ったのだろう。
この言葉を聞いたとき恒夫が強く否定しなかったのも印象的。どこか心の片隅に「別れの予感」があったのかも知れない。結果的には、偽善的な恋愛で終わり、彼女を傷つけてしまった。
だからと言って、恒夫を一方的に責めることはできない。残念だが、罪悪感や自己嫌悪に陥りながらも別れる選択をした恒夫の気持ちも理解できてしまう。
どんな困難も受け入れ、乗り越えることが出来ればそれが理想だが、背負い込む覚悟がないからといって責められないし、これが現実かもしれない。
切なくて痛いほどリアルな世界である。主演二人の空気感、感情のリアルな描写から、セリフだけでは伝わり切らない想いの揺れ動きが伝わってくる。
電動車椅子に替え一人たくましく生きるジョゼと、平凡でフツーの暮らしを選んだ恒夫、これで良かったのかもと思わせるラストシーンだった。

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投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、良品発掘。そして、世間の評価に関係なく私が心動かされた映画だけ、それがこだわりです。やや深読みや謎解きに傾いている点はご容赦ください。 映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があります。「いやぁ~映画って本当にいいものだ」としみじみ思います。