『BU・SU』市川準 1987 

男女の機微に遭遇した少女の戸惑いと成長を描く

BU・SU

《あらすじ》麦子(富田靖子)は母と折り合いが悪く(学校ともうまくいかず)、田舎から上京し、昼は伯母(大楠道代)の置屋で芸者見習い、夜は高校に通う生活を始める。
性格が暗く、社交ベタな麦子は孤立しがちだが、ボクシング部の津田(高嶋政宏)や隣の席の男子、いじめを救った女子生徒らと少しずつ心を通わせるようになる。しかし、芸事にはなかなか身が入らず、伯母からしつけで人力車の後を走るよう言いつけられたりする。
そんな中、男女にまつわる恋愛話を耳にする。(1)母は伯母の元にいた芸者で、父を捨て男と駆け落ちした過去を持つ。(2)従姉妹の揚羽(伊藤かずえ)は商社マン(イッセー尾形)と恋仲になり、ブラジル転勤に付いていくつもり。(3)ばったり会った同郷の友人は、おんぼろアパートに男と暮らしているが、そこに幸せを感じている。
そんな出来事を経て、高校の文化祭の話になる。出し物が決まらず、麦子は「芸者なら踊ってみれば……」と言われ、かつて母が浅草演芸場で見事に踊ったという「八百屋お七」を踊ることになる。しかし当日、舞台のやぐらが壊れるというアクシデントが起こる。そこへ試合に負けて失意にある津田が駆け付け、二人して、校庭に組まれたキャンプファイヤーに勝手に点火し、勢いを増す炎をじっと見つめ、何かふっ切れたような麦子だった。
帰郷し、仲違いしていた母と和やかに話す麦子。「いろんな人がいる」「学校は行ってる」……一歩成長した少女の姿を映してエンド。



《感想》市川の監督デビュー作で、「CM的」と評されることもあるようだが、言葉でなく映像で語り、セリフが少ないほど観客はその内面を推し測ろうとしてのめり込んでしまう、そんな昭和の魅力的な青春映画。
少女が成長していく、その転機を鮮やかに映し出したシーンがある。文化祭で「八百屋お七」を踊ることになり、伯母に稽古をつけてもらい、目標に向け気力が充実した日々が訪れる。いつもついて走る人力車を1台抜き、2台抜き、とうとう先頭に走り抜けても我を忘れて走り続ける麦子がいて、その息遣いが響き渡った。ラストのファイヤーストームも、「八百屋お七」の熱情を託した炎だったという気がする。
先に挙げた男女の恋模様にまつわるエピソードも、一つひとつは大きなメッセージではないが、絵を置くように並べて、出来上がった全体を見渡してみると、恋愛や人生にまつわる全風景が見えてきて、それぞれの意味合いも浮かび上がってくる。内館牧子の脚本も優れているが、それを映画化した市川は映像の職人である。

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投稿者: むさじー

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