『晩春』小津安二郎 1949

互いを思う父娘の心の機微を描いた名作

《あらすじ》56歳の大学教授・周吉(笠智衆)と27歳の娘・紀子(原節子)は北鎌倉で二人暮らし。かつて紀子が健康を害し、お互いを思いやる気持ちから離れ難い間柄になっていた。
周囲は紀子を結婚させたいと思っているが、本人は父のその後が気になってウンと言わない。そこに舞い込んだ父の再婚話。父の親友の再婚を「不潔」と言い放った紀子だったが、自分の結婚話より父の再婚が気になって仕方がない。父を問い詰めると、再婚の意思を認めた。
本当は父と暮らしたかったが、自分の気持ちがだんだん弱くなっていくのを知った。父から「夫になる人と新しい人生を作り上げていくことに幸せがある」と諭され結婚を承諾した。
結婚式が済んで紀子の友人から再婚の事実を問われ「ああでも言わなければ紀子は結婚せんからね」と答える周吉だったが、一人になると寂しさは隠しきれなかった。

《感想》製作時の実年齢は笠が45歳、原が29歳。笠の老け役は見事で、親子役の最初らしい。
原の少し大仰と思えるほどの、激しい怒りの演技が凄い。前半は天真爛漫な娘だったが、父の再婚話を知り、父と能舞台を見に行った折、父の再婚相手と思しき女性の姿を見つけ、そっと睨みつける様、嫉妬の固まり、鬼の形相といった表情で強烈なインパクトを残す。大仰な演出を嫌う小津だけに、これだけ激しい感情の揺れを見せる演出も珍しい。
そして京都旅行の夜、嫁ぎたくない気持ちを吐露する娘と、それを諭す父。二人の思いがぶつかり合う名シーン。激情と静謐の対話だが、娘を思う父の気持ちの方が勝った。だがラスト、リンゴの皮を剥いていた父がうなだれるシーンがあって、この落差が父娘の心の機微というものなのだろう。
もう語られ尽くされた感のある名作だし、コメントする余地はないが、小津の中でも指折りの名作であることは確かである。
戦後間もなくの北鎌倉駅、鶴岡八幡宮、清水寺、竜安寺が描かれていて、古いアルバムを覗く感がある。

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投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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