虐待を体験した若者の成長と再出発のドラマ
《公開年》2013《制作国》アメリカ
《あらすじ》問題を抱えた未成年者をケアするための短期保護施設「ショートターム12」で働くグレイス(ブリ―・ラーソン)は、ケアマネージャーで同僚のメイソン(ジョン・ギャラガー・ジュニア)と恋人関係にある。
ホームでは18歳になると退所しなければならず、虐待を受けた母のもとに帰らなければならないマーカス(キース・スタンフォード)は悩んでいた。そこへ自傷経験のある少女ジェイデン(ケイトリン・ディーヴァー)が入所し、父親との確執からパニックを起こし、施設を抜け出してしまう。後を追ったグレイスが自分の自傷痕を見せ、打ち解けたジェイデンから自作の絵本の話を聞き、父親からの虐待を疑い始める。それは、友達になるため足を1本ずつサメにあげていたタコが、最後には全て食べられてしまい、サメは寂しくなってしまう、という内容だった。
グレイスはメイソンから求婚され了承するが、父親が刑務所から釈放されることを知り動揺し、メイソンとの仲が裂けそうになる。パニックに陥ったグレイスは、ジェイデンの父親の家に忍び込みバットで寝込みを襲おうとしたが、帰宅中のジェイデンに止められ、二人は互いの虐待体験を打ち明けた上で、父親の車の窓を叩き割る。帰宅したグレイスはメイソンに謝りヨリを戻す。二人の間には妊娠をめぐって葛藤があったが、良き親になることを予感させて終わる。そして退所を前に自殺騒ぎを起こしたマーカスが、退所後、施設内で巡り合った年上の彼女とデートしているところを見たというエピソードでエンド。
《感想》クレットン自身、同様のグループ施設スタッフとしての体験があって、同テーマの短編ののち、この長編映画を製作している。
特筆すべきは、ごく自然に虐待を受けた若者たちの視点に引き込まれてしまうこと。そして虐待のシーンが全く描かれず、でも受けた者の傷や切なさが痛切に伝わってくること。重いテーマではあるが、暗くなり過ぎないよう明るいエピソード(ドラマ)を交えて、巧みにバランスをとっているように思えた。それがごく自然で、演出を感じさせずに観客をこのグループホームの生活に入り込ませてくれる。こんな地味なアメリカ映画を久しぶりに観た。
現実を見つめた上で、きれい事に終わらないように配慮し、かつ希望と救いのある世界を作り上げたバランス感覚を評価したい。
グレイス役ブリ―・ラーソンの演技が素晴らしい。職業としての指導者が持つ力強いエネルギーとともに、時にエキセントリックで時にか弱く危うい、恐れ傷ついた過去を持つ女性の内面を好演している。
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