結ばれない運命の二人がたどる未来なき愛
《公開年》2007 《制作国》中国
《あらすじ》冒頭は1942年、日本占領下の上海。政府高官で要人のイー(トニー・レオン)の家で、抗日運動組織のスパイであるワン(タン・ウェイ)はイー夫人らと麻雀に興じていた。
貿易商の夫を持つ裕福な「マイ夫人」を名乗り、イーを誘惑し、イーが警戒を解いたところを狙って殺害する計画になっている。
時は4年前にさかのぼる。日本軍の中国侵攻から逃れ、香港に移住したワンは大学の仲間から抗日運動グループに誘われ、リーダーのクァンに思いを寄せるところから、イー殺害計画に加わることになった。しかし、イーは昇進して上海に去り、思いがけない事件から仲間は散り散りになってしまう。
4年が過ぎ(冒頭の)1942年、上海に来たワンと、本格的なレジスタンス組織に加わったクァンが再会してイー殺害計画が復活し、ワンは「マイ夫人」としてイーに近づいた。そして、たちまちイーとワンは男女の関係になり、次第に任務を超えた本物の恋愛感情に燃え上がってしまう。
当初、イーの行為はサディスティックで、相手を奴隷のように、痛みを与えれば満足し「生きている」ことを実感するようであったが、幾度となく激しく身体を重ねるうち、言葉を介さず身体で会話するようになり、彼はねじ伏せることを放棄し、彼女の前ではされるがまま、視覚を奪われた無防備なセックスまで受け入れるようになる。
あるときワンは、イーに日本料理店に呼び出され、そこでワンが歌う中国の歌を聴いてイーが涙ぐむ。そしてイーからワンへのダイヤの指輪のプレゼント、向かった宝石店は抗日組織員が取り囲んでいて、それに気づいたワンがイーに言う「逃げて」。まもなくワンを含む組織全員が逮捕され、イーは込み上げる感情を抑えながら、全員の処刑を部下に命じた。そして涙してエンド。
《感想》第一印象は二人の激しい性愛描写だが、この性愛描写と二人の心の動きを抜きにしてこの映画は語れない。日本の敗戦は色濃く、男にとって自分の行く末も暗示される状況で、かつては欲望のはけ口、心の安寧を保つ策だったセックスが、惹かれ合い心の通う関係になり、この愛だけが唯一信じられるものになっていった。
女とて、強い抗日意識があって運動に加わったわけではなく、組織リーダーへの恋慕から力を貸しただけなのに、敵との疑似恋愛が本物に変わり、そして組織を裏切る形で散っていった。女は男の激しすぎる愛と、その一方で見せる無防備な姿に、奥に秘めた男の悲しみを見たはずで、だからあえて救いを求めず死を選んだ。男もそれに応えた。
死と隣り合わせの状況で、自らをさらけ出しぶつけ合うかのような二人の逢瀬、この二人に未来はなく、まさに絶望的な関係だからこそ美しく輝いたのかも知れない。リアリティは今一つの作品だが、トニー・レオンの色気と、タン・ウェイの未熟だがひたむきな美しさ、二人の魅力で許せる。
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