『リスボンに誘われて』ビレ・アウグスト 

退屈な人生?そう思って旅に出たら新たな出会いが……

リスボンに誘われて

《公開年》2013 《制作国》ドイツ
《あらすじ》スイスのベルンに住む高校教師・ライムント(ジェレミー・アイアンズ)は57歳の現在、5年前に離婚し独り暮らしで、平凡な毎日を暮らしていたが、ある朝、橋から飛び降りようとする女性を助ける。
彼女が残した1冊の本に心を動かされたライムントは、本に挟まれたリスボン行き切符を届けるため駅に走り、衝動的にリスボン行き夜行列車に飛び乗る。
リスボンに着き、本の著者・アマデウの妹、生前の彼を知るレジスタンスの仲間を訪ね歩くうちに、若くして亡くなったアマデウの人生が徐々に明らかになっていく。
独裁体制下の激動の日々を生きた彼の誇りや苦悩、レジスタンスの同志との友情や裏切り、生涯を賭けた情熱的な恋……アマデウの人生を辿るその旅は、ライムント自身の人生を見つめ直す旅でもあった。アマデウの壮絶な人生に比べれば、自分は何も成していない、その退屈な人生を嘆くが、旅の途中で親しくなった女性・マリアナは「決して退屈な人ではない」と慰め、ラスト、見送りの駅で「ここに残ればいいのよ」の言葉をかける。新たな人生の始まりを予感させてエンディング。



《感想》原作はスイスの作家で哲学者のパスカル・メルシェの小説「リスボンへの夜行列車」。過酷な時代にあって、若者は情熱的な恋をし、民主化革命の活動に生きた、そんな生き方に憧れもする。それに比べると自分の人生は何と退屈でつまらないのだろうと思う。老境にさしかかった身であれば尚更のことである。
しかし、時代に抗い、闘いに生きた短くも充実した人生が、真に本人たちが望んだ生き方かといえば、そうとも言いきれない。もっと自由で、自分の気持ちに沿った生き方があったかもしれない。
ライムントも、自分の過去を振り返り、これからの人生に向き合い、激動の時代と違って、無意味で退屈と思っていた自分の人生に少し光が射しかかるのを感じている。衝動的にリスボン行きの列車に乗った時点で、唐突に人生の変換点を迎え、過酷な時代の生き方を知る。
もう一つの変換点が、偶然がもたらしたマリアナとの出会い。多分、彼女の中に自分の存在意義を見出し、二人の新しい人生が始まりそうな素敵なエンディングである。
原作は未読だが、多分もっと哲学的な内容だと思う。しかし、映画も十分に文学的・哲学的な内容で、美しいポルトガルの街並みは映像でしか味わえないし、ドラマチックな展開も映像表現ならではの佳作である。

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投稿者: むさじー

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