『河内山宗俊』山中貞雄 1936

粋なセリフとスピーディな展開で魅せる戦前の時代劇

河内山宗俊 映画 に対する画像結果

《あらすじ》甘酒屋を営むお浪(原節子)には不良の弟・広太郎がいて、元坊主で今は居酒屋兼賭場の店主・河内山宗俊(河原崎長十郎)の賭場に出入りしていた。金子市之丞(中村翫右衛門)は所場代取り立てをする森田屋の用心棒で、健気な娘お浪に少なからず魅かれていた。
ある日広太郎は店に来ていた侍・北村大善から小柄を盗み、後日、紛失すれば切腹の大善がお浪の元へ返還を詰め寄る小競り合いがあって、市之丞に救われる。
また、賭場のいかさまを見抜いた広太郎と宗俊は意気投合して繰り出した郭で、広太郎の幼なじみの三千歳と再会するが、三千歳は森田屋に身請けされようとしていた。思いつめた広太郎と三千歳は入水心中を図るが、三千歳は溺死し広太郎は生き残ったため、森田屋から身請け料を払うか、お浪に身代わりになれと言い渡される。市之丞は森田屋の命で身請け料をもらいに行き、事情とお浪が身請けされたことを聞き、宗俊と相談して、二人してお浪救出に立ち上がる。
宗俊は大善の屋敷に乗り込み、小柄の件をネタにゆすって大金をせしめるが、広太郎を追う森田屋子分の来襲を受け、宗俊と市之丞は迎え撃って戦い死んでいく。広太郎は宗俊から受け取った金を懐に、お浪が売られていったという品川遊郭へ向かってエンド。



《感想》浪人・市之丞のセリフが秀逸。「人のために喜んで死ねるようなら、人間、一人前じゃないかな」「ここがわしの潮時だ。人間、潮時に取り残されると恥が多いというからな」。侍であることに愛想を尽かした無頼漢なのだが、悪人というわけではなく、純情な一面も備えている。
小柄を盗まれ切腹かもと心配する旧友に「それでいつ腹を切りますか」と、権威を鼻で笑うような彼の態度、盗まれた小柄がセリに掛けられ、そのことが宗俊のゆすりのネタになるところなど、侍社会が徹底的に茶化され、現代にも通じる軽妙な会話でコミカルに描かれている。製作の時代背景でいえば、本作の翌年に支那事変に突入という、キナ臭い世の中を笑い飛ばしたい気持ちがあっただろうし、命の終わりを見据えた切なさが感じられる。
もう一つの魅力は、デビュー間もない原節子の美しさ。清楚な輝きの中に、15歳とは思えない色香が漂い、この映画で小津の目に留まったという。
本作の年、山中は何と26歳、翌年中国に出征し、翌々年中国で28歳の若さで戦病死した。発表作は26本あるが、現存するのは本作を含めて3作品のみ。本作もトーキーへの移行期で、録音状態は著しく悪く、セリフが聞き取りにくいため、リマスターDVDには字幕が用意されている。

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投稿者: むさじー

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